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第3話

その後 子どもたちは首都へ入り 従者の言ったとおりに国王陛下への拝謁の名誉に浴した 陛下は様々な事情で自分のお膝元へ集った子供たちに 慈悲深いまなざしとお言葉を下賜された 「みなが、愛し愛される日々を送れるよう、神に祈ろう」 神に愛されるこの国で 等しく国民が愛に溢れる生活を送る 国王陛下はそう願っておられると従者に聞かされ 子どもたちは王様ってすごい!と歓声を上げた 翌日からは王宮に集まった見識者や軍関係者たちを交えて 事情や希望を勘案し子供たちの将来や身の振り方を決めていった 従者の見立てどおりグリフォードは早々に軍部が引き取ると言った 軍関係者の集落で里親を決め責任を持って育て上げ 訓練に参加させて立派な軍人に グリフォードの希望と完全に一致した進路だった そんな風に早ばやと段取りがついたグリフォードは 次の日には王宮からその後長く住むことになる村へ移動した 大事な婚約者を残して 離れるときにグリフォードは マディーラに手紙を渡した 今となっては孤児だけれど きちんと教育を受けていた彼は読み書きが出来たのだ 手紙には必ず将軍になるから待っていて欲しいと記されていた マディーラはその手紙を受け取って両手で自分の胸に抱き ずっと待っているからね、と笑った そんな彼の頬にグリフォードは真っ赤になりながらぎこちなく口づけをし 彼としばしのお別れをした しばしだと思っていたお別れは思いのほか長くなる 自分の新しい生活が始まり 優しい家族が出来て落ち着いた頃 グリフォードはマディーラが後宮に入ったと聞いた まだソッチ方面の知識に乏しかったグリフォードは 後宮にいると王様からとても愛されるんだと説明されて なるほど、それはマディーラに相応しいと喜んだ あの美しい俺の婚約者なら誰からも愛されて然るべきだけれど この国の王様から愛されるなんてすごいことだと思った 無知は時として自分を救う やがてグリフォードは成長していっぱしの軍人となり 各地を歴戦しながら水陸両軍で結構な戦績をあげていく 年に数度行われる王宮での国王主催行事の一つ 大きな成果を挙げた軍人が集められ それを国王陛下から直接労っていただけるという式典 グリフォードは大きな体躯で新調した深紅の礼装を堂々と着こなし 他のずっと年上の数名とともに御前に跪いてお言葉を頂いた 国王陛下が退席なさるのを直立してお見送りしたときに 懐かしい銀の髪を見た 陛下の後ろに俯きがちに控えていて気づかなかったけれど マディーラがそこに居た ざんばらだった髪は長く伸び か細かった身体はしなやかに育ち 薄布の向こうの姿はこの世のものとは思えないほど美しかった 「マディーラ!」 さすがに近づくような真似はできなかったけれど それでも軍隊仕込の大声でその名前を呼んでいた 彼はグリフォードのことに勿論気づいていたんだろう こちらへ顔を向け 一つ深く頷いて花の咲くような笑顔をくれた そしてそのまま王宮の中へ姿を消した まるで幻のような一瞬の再会 「このバカ!!」 彼が消えた薄布の向こうを惚けたように眺めていたグリフォードの頭に 上司であり里親でもある陸軍将軍の鉄拳が振り下ろされた 常人なら死んでいる 鍛えているグリフォードでも一瞬死の淵を覗いた 「~~~~~っっ!!」 「不躾にも程がある!そんな風に育てた覚えはない!!」 「だって、だって」 「だっても明後日もない!」 「でも」 「デモもストもない!」 「俺の、婚約者なんです!」 隊長は無言でグリフォードの腹に拳をめり込ませた グリフォードは声を上げることなくその場に沈んだ グリフォードはその後も軍人として国防に大きく貢献し続け 毎年国王陛下の式典に招待され続けた 名誉を讃えられるその式典だけではなく 陛下のお誕生日のお祝いや王宮主宰の晩餐会にまでお呼びが掛かるようになった そしてそういった行事で 陛下の後ろにはマディーラの姿がある ほんのわずかな時間 彼の美しい笑顔を見たい そのためにグリフォードは必死に訓練し戦い抜く なぜ式典にマディーラがいるのか グリフォードもいつまでも子供ではない 後宮にいる彼の仕事も お傍近く召し上げられている彼の立場も理解してはいた 国王陛下は数年前にお后様を亡くされ 大勢のお妃様や姫君王子に囲まれて暮らしておられる そういう王家の人間のわずか一歩後ろの位置に控えることを許される人なのだ それでも彼は自分の婚約者だと思っている いい軍人になったグリフォードのところには縁談はよく持ちかけられ マディーラに操を立てることもなかったけれど どれほど望まれても結婚はしなかった 彼が、自分が将軍になるのを待ってくれているから 年に数度のあの笑顔 それだけで信じられる自分が不思議だったけれど きっとマディーラも同じ気持ちだと漠然と思い続けている 自分に出来ることは 子供のときにマディーラに誓ったあの言葉を違えることなく いつか将軍になり 彼にありったけの愛情を注ぐ男になること 月日はマディーラにもグリフォードにも同じく流れていき 水軍として海や河を船で渡り 陸軍として辺境の地の要塞を築き 両軍で将軍職を全うしたグリフォードは その功績が認められて首都へ召還された 首都警護部隊への配属 それは彼がここ数年ずっと望んでいたことだった マディーラの傍へ 彼を護る男に 婚約から二十年が経っていた

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