1 / 1

第1話

 英輝(ひでき)太輔(だいすけ)に出会ったのは高校生の頃だ。  太輔は学生時代から明るくて好奇心旺盛で、その性格から大雑把なところもあったが、それを含めて愛されるおおらかなキャラクターだった。太輔はいわゆる陽キャと言うやつだ。  それに対し英輝は物静かで、興味深い一つのことに没頭する学者タイプの几帳面さを持っていた。人嫌いではなかったが、陰キャと呼ばれることに差し支えはない。英輝は自分とは全く正反対の太輔とはウマが合ったのか、逆に高校時代はずっと親しい関係だった。    このまま親友として歳を取るのだと二人は予想していただろう。互いの結婚式には、友人代表で祝辞を述べるような気心のしれた関係に育つはずだった。  二人に変化が訪れたのは、太輔の好奇心旺盛ぶりのせいだ。  大学で遊び人だった先輩にいろいろな薫陶を受けた太輔は、快楽に男同士の可能性を見出してしまったのだ。  結果、男女の区別なく快楽はもちろん、愛情さえも芽生えると自覚した太輔が、英人に猛烈なアプローチしてきたのだ。  どちらかといえば保守的な性格の英人だ。初めのうちは性別がネックとなり、おおいに悩んだが一度興味を持つととことん掘り下げる性格が良い方に働いた。覚悟を決めてからは恋人同士として二人の関係は良好になったのだ。  それから5年。  大学を卒業し、互いに就職した勤務先の関係で離れてからは、二人には小さな溝ができてしまったように思う。  仕事の関係で太輔は東京に就職し、英人は茨城県のつくば市に勤務することになったのだ。  年に数回しか会えないような長距離ではないが、学生時代のように飲み会の帰りにふらりと立ち寄って泊まれる距離でもない。  会おうと思えば会える。でもコンビニ感覚ですぐには会えない。その微妙な距離が二人に倦怠期と言うものを与えてしまっていた。  だがそれで嫌いあったわけではないし、浮気に走ろうという気持ちもない。王道と呼ばれる漫画と同じで、マンネリ化しても、その王道らしい最後に帰結するのだ。  だから今は我慢のときなのだと思っていたそこへ、太輔からバレンタインのプレゼントを用意したと連絡があった。  太輔のことだ。きっとジョーク混じりなものに違いない。  詳細を問えば案の定、知る人ぞ知る人気のアダルトショップでグッズをオーダーメイドしたらしい。  自分の勃起した陰茎の型を取り、それでバイブを作ったから使ってくれと呵々大笑した太輔グーパンしたかった自分は悪くない。  呆れたしうんざりもしたが、この5年間で互いにアダルトグッズを使って楽しんだことが多いのも事実だった。  だから呆れながらも受け入れ、どこかで期待している自分がいた。  「初めまして、吉野英輝様。わたくしアダルトショップ“ぷりっく”の現地販売員の鈴木と申します。本日は武内太輔様よりバレンタインプレゼント“愛棒”のお届けと使用法についてご説明すべく伺いました」  ……あやしい。  限りなく、あやしい。  なぜなら彼は某ペンギンの量販店で売っていそうな馬の仮面を被っていたのだから。  考えてみて欲しい。  バレンタインに恋人からプレゼントを受注し、馬のマスク男がバイブを配達にくるシュールさを。  もともと太輔とショップから、オーダーメイド品を現地販売員が配達に来るとは聞いていた。一点物であるバイブには、最高にランクするオプションの使い方があるらしい。その使用法と説明に販売員がくるのはまだわかる。だがそこで気がつくべきだったのだ。  ――お伺いする販売員が、馬、オペラ座の怪人、ピエロ、ジェイソン、ガスマスク、ペストマスクのいずれが宜しいかと聞いてきたが意味不明さに気づかないといけなかった。  意味不明のまま、とりあえず最初に耳にした馬と答えてしまった自分を殴りたい。  その結果が馬のマスクを被って立つ販売員の姿なのだから。  ――意味不明すぎて怖い。 「……あの、なんで……馬?」 「私どもはお客様のより良いセックスライフを楽しんで頂くための小道具です。ゆえに現地販売員はこのように個性を消したマスクを着用させて頂いております」  いや、個性しか勝ってないのだが。  言葉を飲み込んだ英輝は。名刺を受け取りつつ馬販売員を招き入れる。だってこのまま玄関先に立たれても近所の目を考えれば仕方がないだろう。  幸いにも怪しいが企業でも身元は確かなのだ。 「ではこちらが武内様よりお預かりした1/1スケール・武内様タイプ“愛棒”にございます」  ピンク色の包装紙に焦げ茶色のリボンが掛かった長方形の箱を恭しく差し出してくる。  馬が。 「武内様のペニスを忠実に再現し、特性シリコンで質感、硬度も本物と遜色なく、また動きは5段階の強度に加え、12種類の動きを備えております。またピストンと回転もリアルな動き重視したスタンダードモード、人間では味わえないミラクルな動きも使用可能なアクティブモードも御使用頂ける内容となっております。最大の特徴として当店の専用アプリをダウンロードして頂くと、本州であれば遠隔操作も可能なプレイモードをお楽しみいただくことが可能です。パートナーからの遠隔操作を推奨しておりますので」  滔々と丁寧に商品の性能と操作方法を説明してくれる。  馬が。  正直、馬の個性が強すぎて説明も話半分に聞くしか無い英輝だった。  馬の個性に意識が向く英輝をよそに、専用アプリを英輝のスマホにダウンロードする販売員。仕事が早い馬だ。 「あとは吉野様が“愛棒”をパッケージから出していただくと、スマホのブルートゥース機能と自動ペアリング致しますので、すぐにでもご使用頂けます。また武内様はすでにアプリをダウンロード済みですので、アプリ内で吉野様、武内様専用のお部屋がございます。そちらで音声チャットを無料でお楽しみ頂けます。なお画像チャットは有料オプションとなっておりますので、後日武内様とご相談下さい」  流れるように有料コンテツを出してくる馬。なかなか侮れない。 「今回はバレンタイン仕様ということで、武内様の希望で全体にチョコレートを薄くコーティングしてありますので、吉野様ご自身の舌で舐め溶かす食べ方を推奨しております」    自分の恋人はどこに向かっているのだろうか。若干遠い目になりながら、言われるままにパッケージを破いてペアリングを開始する。見ればバイブの上から半分ほど薄くチョコがコーティングしてあった。  それを包むためにコンドーム型の包装紙がどうでもいい小技を効かせている。  無駄に張り切った小細工を褒めるべきなのか。 「そしてこちらが武内様からのメッセージカードです」  両手でキラキラしいホログラムのメッセージカードを馬が差し出してくる。疲れた様子でカードを受け取ると、思えのある癖の強い文字が、『今夜20時以降から動かすからお楽しみに!』 と、呑気なことが書いてあった。  ……正直、ふざけているように思えたプレゼントが、太輔の文字を見て一気にリアルさが増してきた。  ちらりとチョコがコーティングされたバイブを見る。  あの本物の形を握り、あの形を撫で。あの形を舐めて、あの形をしゃぶり、あの形に穿たれて、それからそれから――。  意識してしまうと駄目だった。  どくどくと心臓が高鳴る。時計を見ればまだ14時――まだ6時間もある。その時間を思うと知らずに切なさで尻が疼き始めてしまった。 「……様、吉野様」 「うぁ、は,はいっ!」  名前を呼ばれて顔が熱くなる。絶対にバイブをガン見していたことがバレているだろう。もしかしたら尻を蠢かしたことさえ気づかれたかもしれなかった。 「こちらはあくまでご提案なのですが、よろしければ動作確認をしてみますか?」 「え、……あ……」  動作確認。つまりは太輔そっくりの疑似ペニスが動くということ。……正直、見たい気持ちだった。 「またこちらは無料体験と致しまして当社の商品を無料でお試し頂くことができます。ただしあくまで商品の体験だけですので、私が直接吉野様に触れることはございませんし、服を脱ぐ必要もございません。着衣のまま触れてみる無料の体験です」  きりっとした声を雰囲気で折り目正しく馬が説明してくる。――じかに触られたり、肌を晒したりしないのなら……少しくらいは……。  就職してから東京と茨城に離れて、合う回数は月に二,三回になっていた。大学時代は半同棲状態で週に何回も会っていたのに。  枯れるには若い肉体はまだ早すぎる。本音を言えば欲求不満気味なのは確かだった。  これはただの商品説明だし、無料体験で……そもそも6時間後には話せるのだから、浮気とかそういった類ではない。  ――なら、ちょっとだけ……。 「あ、あの……それじゃ、お願いします」  真っ赤になった英輝をどう見ているのか、馬のマスクが強すぎて真意がわからない。 「では失礼いたします。――おっとまずはパッケージを破って、表面のチョコレートを落とさねばなりませんね。さあ吉野様、先をお咥え下さい。私が引っ張りますので包装を破きましょう」  英輝の鼻先に差し出されたのは、コンドーム風の包装だ。きちんと精液溜まりの先端があるところがマニアックさと仕事の丁寧さを感じさせる。  胸を高鳴らせながら精液溜まり部分の包装を口で咥えれば、チョコレート色の太輔の亀頭を見た気がして体が熱くなっていった。  リアルに拵えられた亀頭の形は見慣れた太輔のものに似ている気がする。  だがほんのりと香る甘い匂いが肉の生々しさを薄れさせ、それが本物ではなく男根を模したいかがわしい玩具と知らしめていた。    コンドーム型の包装紙を咥えると、馬のマスクを被った販売員がゆっくりバイブを引き抜いていく。  じりじりと顕になっていく尿道口や亀頭のくびれ、血管などを忠実に再現したシリコン製の玩具は、何年も見てきた太輔の一部を否応なしに思い出させた。  臍の下がずくりと疼く。 「バレンタインですからホワイトチョコレートを塗らせて頂きました。武内様からの真心でございます。吉野様、どうぞ御賞味下さいませ」  体にフィットするU字方のロングビーズクッションに座っていた英輝に対し、馬のマスクの販売員が両膝を立ててチョコ付きバイブを差し出してくる。その上から下に向ける角度はビーズクッションの一部に座った英輝に対し、記憶に似た高さは佇立したまま口淫をねだる太輔の腰の位置によく似ていた。  なるべく癖が強い馬のマスクから目を逸らしたい意味もあり、英輝は販売員を見ずに口を開く。あの馬のマスクはいろんな意味で視覚の暴力だ。  目を逸らしながら甘い匂いのする疑似亀頭が接吻するように唇に触れ、期待を持たせて英輝の唇を撫でていく。 「……ん、……っ」  舌を突き出した英輝が、躊躇いがちに亀頭部分を舐めてみた。  甘い。  その味が本物ではないと思い知らせてしまい、肌を戦慄かせて残念に思ってしまう。  これが太輔なら、太輔のものなら、舌を絡めて啜って、生臭い精液を喜んで飲み干すのに。 「……う、ッ……ふぅ……ッ」  太輔を思い出して大きく開いてしまった口に、亀頭の丸みが押し込まれ唾液が溢れてしまう。  バイブを持つ販売員が普段の太輔がそうするように、上顎を亀頭で小突いて緩やかなピストンを与えて脳が本当のオーラルセックスと誤認してしまう。   「吉野様、どうぞ御遠慮なさらずに。いつものようにお楽しみ下さい。こちらの提案としては、バレンタインですし、まず表面のチョコレートを舌で剥がされることをオススメします」  穏やかで抑揚に乏しい声はあまり生々しさを感じない。データで作られた機械音声案内を聞いている気分になり、ついつい言われるままに舌でバイブに塗られていたチョコを舐め回してしまった。  チョコ自体は多くないが、固まった甘味を溶かすには盛大に舌を使わなくてはならない。  気がつけは大きく口を開き、ちゅぶちゅぶと品のない音を立てながら上下左右に舌を動かしていた。 「たいへん結構です。――ですが吉野様、カリ首の下にまだチョコが残っておりますよ? ああ、右側の太く浮かんだ血管付近もどうぞ。武内様の勃起なされたチンポ同様に丹念になさるのが宜しいかと」 「……ン、ぁッ、あぁ……ッ」  先程まではペニスと言っていた言葉が、チンポという直接表現になったことで一気に脳が熱く痺れ出す。  太輔の、太輔の――チンポ。  ピーズクッションに押し付けた尻が捏ねるように揺れてしまった。   「……え、……ぶ、っ……」  英輝の舌を巻き込みながらバイブが口腔に押し入ってくる。  そう言えば太輔はちょっとSっ気がある男だった。基本的におおらかなので無理強いとかひどい真似はしなかったが、口淫をするときはわざと深くまで入れたり、乳首を摘んで強く引っ張ったりされたのだ。  そして英輝はその行為が決して嫌いではない。 「少々穿ったことを申し上げますが、吉野様は被虐傾向があると存じます。武内様に被虐傾向を詳らかに仰れば、今よりもより良いセックスライフが送れるのではないでしょうか」  喉を圧迫する大輔の陰茎を模したバイブ。舌に感じる血管の太さをリアルに感じられて、ビーズクッションを跨いで腰をバイブの動きに合わせて前後に動かしていく。 「さてこちらからご提案する商品がございます。当社のバイブ、ディルドゥ全てにアタッチメント可能な強力吸盤はいかがでしょうか? 床はもちろん、凹凸の乏しい壁や椅子にも固定可能で、この吸盤にバイブを装着してご自分で腰を振られるのもよし、跨ったまま空いた両手で乳首弄りなどなさってもよしの便利グッズとなっております。……ときに吉野様、武内様は乳首責めなどなさいますか?」  喘ぐ英輝と温度差のある冷静な声が鼓膜に染みていく。  火照った体が太輔の指や舌を思い出して、必死に首を縦に振った。 「ではこちらはいかがでしょう。自慰用としてもパートナーの責めアイテムとしても使用できる“”ビンカン肌・指サックです」  太輔の形をしたバイブに吸盤を取り付け、英輝のすぐそばの床に固定してから販売員は商品を詰めたアタッシュケースを探る。  呼吸を乱す英輝の目の前に差し出されたのは、二対三種のシリコン指サックだった。  ピンク色のタイプは歯ブラシのような繊毛がびっしりと付いていて、赤色のタイプは蛸のような吸盤、紫色のタイプは粟のような粒タイプだ。 「こちらで敏感な肌を擦って頂くだけで、もどかしい快楽が得られます。想像してみて下さい。繊毛タイプでヒクつくアナルの皺を一本一本擽られれば腸壁はぐずぐずに痺れ、武内様のおチンポを欲しがる極上のとろまんこに仕上がるでしょう。吸盤タイプの指サックで蟻の戸渡りや乳首の先端を吸われてみるのはどうですか? 粒タイプで乳輪を丹念に撫で、臍周りを擽るのもいいでしょう。吉野様のお肌は、ますます敏感な肌に変貌いたします。まずは汎用性のたかい繊毛タイプをぜひ試して頂ければ」  柔らかい口調なのに否を言わせない販売員は、素早く英輝の左右の親指と人差し指にピンク色の繊毛タイプを嵌めてしまう。  びっしりと繊毛が付いた指サックを見た英輝の目は、その感触を想像して熱く潤んでいた。 「さあ、どうぞ。まずは手のひらを擽ってお試し下さい」  言われるままに手のひらの窪みを繊毛で軽く撫でる。皮膚が感電したような錯覚がした。 「……ん、ぁあぁっッッ!」 「大変宜しい反応です。さあそのまま服の下に手を入れて乳輪の周りを円を描くように撫でてみて貰えれば、その商品の真価がお分かり頂けますので」  もはや販売員に操られたように英輝は服を捲り、自分の乳輪部分を円を描きながら撫でる。乳首と尻が一本に繋がったような痺れが走った。 「まだ止めてはいけません。ぜひ両手でどうぞ。ゆっくり、ゆっくり、撫でて、撫でて、撫でて……」 「あ、あひ……ッ、おかしい、ちくび……おかし……いぃイィぃぃッッ!!」 「乳頭がいやらしく勃起しましたか? さあ繊毛部分で勃起乳頭を押し潰してはいかがでしょう? ぜひお試し下さい」  言われるままに乳頭を繊毛の指サックで押しつぶすと、繊毛の先端が脆弱な皮膚を刺すように肉の粒をひしゃげさせてしまった。  声が迸る。  もどかしい快楽は体を甘く敏感にさせるだけで、凝り固まった肉欲を外に放出させてはくれなかったが、それでも快楽は脳を焼く。 「い、……いき……だい……ッ」  体中が悶えて叫んでいた。  このもどかしい快楽を終わらせてくれと、全身に鳥肌が立つ。  人の形をした入れ物に、淫靡は欲だけを詰めて脹らませたかのような熱はもうはち切れそうだった。  思わず哀願の色で販売員を縋ってみてしまう。 「いけません、吉野様。私どもはより良いセックスライフを送っていただくための舞台装置、ただの道具です。あと数時間お待ち頂ければ、武内様より甘美な愛が届きましょう」  もどかしさ故の物足りなさは、パートナー、つまり太輔を求めて乱れることこそ正道なのだと、宣教師のように馬のマスクが宣う。  あんまりだと思った。  この熱く火照る体で何時間も耐えろとは。  気が狂いそうなもどかしさでは一分一秒ですら長く感じるのに。  英輝の顔のすぐそばに雄々しく立つバイブがあった。先程、吸盤の説明に使用法として床においてみせたやつだ。  火照った体をごまかすように胸を弄ったまま、英輝が体をひっくり返してうつ伏せの格好になった。U字型のビーズクッションに跨り。股間を切なく擦り付けてしまうのは無意識の行動だ。  ビーズクッション相手にカクカクをと腰を振りながら、床から勃起するバイブにも舌が伸びてしまう。  太輔――太輔、太輔――太輔の、チンポ。  欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。  太輔の固くて逞しいチンポを口いっぱいにねじ込んで貰って、俺の喉を使って扱いて欲しい。息ができないくらい口を犯して欲しい。唇から溢れんばかりに精液を注いで欲しい。  そして一刻も早く疼く尻穴をとろとろのけつまんこに作り変えて欲しい。浅ましいトロ肉を太輔のチンポで抉って太輔のチンポで捏ねて太輔のチンポで擦って太輔のチンポで突きまくって……早く、早く! 「武内様を全身で感じている御様子。それは吉野様が武内様を細胞レベルで求めていらっしゃる証拠です。夜までにもっともっと武内様を思い出して感じましょう。吉野様の熱く蕩けたお尻――いいえ、けつまんこにバイブを咥え込み、武内様の激しいピストンを感じるように遠隔操作して頂きましょう。そしてたっぷりと遠隔操作で武内様を感じたら、今度は疼きを残したまま、直に武内様にお会いしましょう。……きっとこのように吉野様を愛してくださるはずです」  空っぽのまま疼く尻に何かが押し当てられた。挿入を期待したのか腰が大きく跳ね上がったが、英輝はズボンを履いたままだ。  衣擦れの音から販売員も同じで、当然挿入など不可能だ。  英輝の尻に密着したもの、それは着衣のまま押し付けられた販売員の股間だった。 「あ、ぁ、あッ……あ、ひぃィィィッッ!!」  疼くだけで太く逞しい肉の栓を嵌めていない尻を、着衣したままの股間でゆさゆさと揺さぶられる。  直に肌が触れているわけではない。英輝の奥は切なくからのままで、指一本すら入っていない有様だ。なのに太輔とのセックスを記憶していた体が悦んでいるのが分かる。  喜悦の尻を押し当てただけの股間で揺すられ、ピストンするように押されて英輝はビーズクッションにしがみついで声を絞り出す。  気持ちいい。たまらない。もっともっとして欲しい。  もっとチンポが欲しい。  体の中に無いはずの太輔を感じた。  何年も馴染んだ、太輔の、肉の凶器が。 「……だ、だい、しゅけ……ッッ、ちんぽッ、ちんぽッ……んんあぁぁッッ、あ、あぁッ欲しい、欲しいよぉ……ッッ、だいすけ、の、ちんぽちんぽッッちんぽが、ほ、しいぃぃぃぃッッ!!」  密着した腰を揺さぶられて、まるで疑似セックスのように迎え腰で尻を振り返しながらも、ただ揺するだけでは本当の絶頂は訪れない。甘く長く続く、生殺しの快楽に英輝の頭は大介しか考えられなくなっていった。  「それでは武内様の商品を確かにお届けしました。またその他の商品のご購入もありがとうございます。今後も末永くお付き合いの程を」  遠くに販売員の声が聞こえる。  だが自分の呼吸の音が煩すぎてうなく返事ができない。  気持ちよくて声が喘ぎにしかならなかったのだ。  ――こんなのが、もっと太輔が、しくれるなんて……。  尻を掲げてヒクつかせながら、蕩けた顔で大量購入したアダルトグッズを前に20時になるのを英輝は待ち続けていた。                              終    

ともだちにシェアしよう!