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第3話

 節操がないと言われれば否定はできない。他店の社員と、出入りの業者以外に、外部インストラクタとも関係があるし、一番の自己嫌悪の原因は、会員さんとも寝てるということだ。  そもそも社則では、会員さんとの私的なやり取りを禁じているし、社員の立場からアルバイトの子達にもそう指導している。それでも、手を出したの出されたのと騒ぎになったり、会員同士が一人のスタッフを取り合うような形で大乱闘を演じたりするのは珍しくない。だから、徹底しないといけないのだ、本当は。  なのに僕は、自分のクラスによく参加している男と、熱心に筋力トレーニングに励む男に言い寄られて、流されている。その二人はまったくタイプの異なる利用者で、接点もないらしいので、幸いなことに痴情のモツレなどという笑えない事態にはならないだろう。だけど、何がどう転ぶかなどわからない。  最近よく考えるんだ。僕はどうしてこうなったんだろう、一体どうなりたいんだろうって。  僕に興味を持つ男は似通った趣味をしている。僕は雰囲気ですぐに悟られてしまうほどネコ気質なので、当然だけれどタチが寄ってくる。職業柄、知り合うそういう男は、みんな力が強くて、身体を鍛えていて、そんな自分が好きで、誰かを従わせたくて仕方がないらしい。その標的にされるのが、何故か僕なのだ。  僕のほうが体格もいいし、筋力もある。女性的とは言いがたい風貌なのに、彼らから見れば格好の被食者に映るらしい。  確かに僕は、優柔不断で、流されやすいかもしれない。だけど、罵倒されるのも侮辱されるのも痛みを与えられて我慢を強いられるのも、ひどく苦手なのに、被虐嗜好だと決め付けられる。普段はそうでもないらしいのに、僕を見ると加虐心に火がつくらしい。乱暴に扱うほどに、僕が悦ぶと、何故かみんな疑わない。  本気で抵抗すれば、抜け出せるかもしれない。だけど、そうしないのは結局、みんなの言うとおり、僕はそういう風に扱われたいと望む種類の人間なんだろう。  嫌だと思って、やめて欲しいと言っても、それは彼らを煽ることにしかならなくて、僕の懇願は彼らの欲望の一部を満たす。そしてより凶暴になり、僕は痛い思いをし、抵抗を諦めれば、ようやく素直になったか、やっぱりお前はそうなんだと嗤われる。さらに救いがないことに、僕の身体は、その後の行為にドロドロになるほど悦んでしまう。その頃にはもう、意識も朦朧としていて、ただひたすら気持ちよくなりたくて、何を言われても何をされても、理解できないままに頷いて強請り続けるしかできなくなる。  この人は、違うかもしれない。次は違うかもしれない。  そんなささやかな綺麗ごとで言い訳をしたところで、僕はただ、下半身のだらしないバリネコで、最終的には吹っ飛ぶほど気持ちよくなれれば誰でもよくて、そのためには、多少のリスクを負ってもかまわないと考えるような男なんだ。  類は友を呼ぶとはよく言ったもので、僕がそういう人間だから、そういうのを屈服させたいような男が寄ってくるんだろう。彼らは優しい。だって、僕でさえわからない、僕の悦ぶことをいくらでもしてくれるのだから。  僕のセックスは、ほとんど藤田さんに教えられたものだ。彼に出会う前にもちろん経験はあったけれど、フェラチオのやり方も、体位も、イくタイミングでさえ、彼に習った。上手くできた時に褒められるのが嬉しかったし、三つ年上の藤田さんとのセックスは、僕にとって最高に気持ちのいいものだ。  藤田さんの性器はすごく固くて太い。長さは普通なんだけど、その太さで尻孔をこじ開けられて、ひきつるほど拡げられる感覚はたまらない。  彼が家庭を持ってからというもの、店舗の事務所や車の中で、強引に抱かれるのが普通になっている。勤務先が離れた時期は疎遠になっていたけれど、何の因果か、またこんなに近くの店舗に配属になって、しかも桂店は逢引するのに好都合だ。  逃げられない。  もう覚悟というか、諦めている。僕の身体は藤田さんに知り尽くされていて、僕も藤田さんの悦ばせ方を知っていて、だからこんなに何年もずっと、続いてしまっているんだ。これが正しいかどうかなんてもう、問題じゃない。  自分で会社を経営しているという会員の男は、道具を使うのが好きな人だ。僕のレッスンのほとんど全部に参加して汗を流し、レッスン終わりの片付けのわずかな時間に近寄ってきては、何度も僕を口説いた。困るからと、もちろんずっと断っていたけれど、ある日待ち伏せされて、渋々車に乗ったらもうあっちの思う壺だ。  僕の給料じゃ泊まれなさそうなホテルの大きな部屋に連れ込まれて、騒ぐと不利なのはあんただと脅されて、彼の持参したいろんな道具であらゆる場所を嬲られる。僕が嫌がってもお構いなしだ。  身体的にはかなり辛い。当たり前だけどマシンに疲れはない。延々と僕の身体の中で暴れて、イかされまくって、僕が息も絶え絶えでぐったりしたところで、彼はようやく自分のものを僕に挿入して、数回の抽挿であっけなく果てる。コンプレックスがあるのだろうとは思うけれど、こっちの都合も考えてほしい。  そして終わった時には必ず「すごく気持ちよかっただろう?」と言われる。その頃にはもう、僕は疲れ切っているので頷くしかない。事実、それほどまでに徹底的に責めてくれるのだから、気持ちいいことは間違いない。  もう一人の会員の男は、背は低いのに全身ガッチガチの筋肉を纏うマッチョだ。見た目だけではなく、考え方もマッチョで、僕のようなネコを蔑みながら抱くのが趣味だ。力を誇示するかのように、押さえつけられたりねじ伏せられたりもする。力任せに腰を叩きつけられるやり方は、苦痛の方がずっと大きい。だけど、彼は僕を好きだと言ってくれる。その一言で、多少の乱暴も許してしまうのは、きっとその言葉に飢えているからだろう。「強引にされるのが好きなんだろう?」と言われても、いつも違うとは言えないままだ。  いつもクラスをお願いしているインストラクタの一人が、インフルエンザで来られなくなった時、代理で寄越したのは、肩につきそうなほど長い髪をした、モデルのようにきれいな男だった。二日間で計三回のレッスンを代行してくれて、会員さんたちの評判も良かった。同じ筋トレ系のクラスだったので話が合い、一緒に食事に行った帰り、ホテルに誘われた。僕はフラフラと着いて行ってしまった。こんなきれいな男に抱かれるのはどんな感じだろうかと思ったのだ。  ホテルの部屋で押し倒されて、濃厚で巧みな愛撫に溺れた。身体はもちろん美しく鍛え上げられていて、見惚れるほどだった。僕にキスをしようと寄ってくる顔も、近くで見てもきれいだ。器用に動く指で後孔をほぐされて、突っ込まれたのは大きなディルドだった。本番前の遊びだと思って、僕はそれを受け入れた。 「俺、小阪くんみたいなかっこいいバリネコ食っちゃうの、好きなんだよね」  艶やかに淫猥に、楽しげな笑みを浮かべて、その男は僕の上に乗っかった。信じられないことに彼は僕のペニスを自分の中に挿入して、遠慮もなく貪られる。経験がないわけではなかったけれど、久しく誰かに挿入してなかった僕は混乱し、さらには彼は自分の好きに動きながらも僕に埋め込んだディルドを器用に抜き差しして、僕を前後から責めたのだ。大きな声で甘く喘ぎながら、彼は「すごい、大きくなった。気持ちいいでしょ?」と言い、確かに初めてのやり方に僕はものすごい満足感を得てしまった。  今関係があると言える男たちとのセックスを顧みても、僕は救いようのない男に思える。唯一罪悪感なく甘えていられた藤田さんも、今となっては家族のある身だ。忙しない逢瀬に、胸が痛まないと言えば嘘になる。  誰か、こんな僕を叱ってくれないだろうか。潮時だと言い聞かせて、何もかも清算させてほしい。

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