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時吉志信と月島由貴の生活 4
志信は身体が柔らかい方ではない。筋肉質なのでどちらかといえば身体は硬い方だ。それが膝が頭の横に着くくらいまで曲げさせられて、後孔が天井を向くような格好で上から由貴を受け入れている。
苦しい格好なのだが由貴を受け入れるようになって四か月、志信はかなり身体が柔らかくなっていた。仕事の途中に肩凝りや腰の怠さを取るために柔軟体操を始めたのも良かったのかもしれない。
奥の奥までぐっと押し入って来る由貴の眉根が寄っていて、限界が近いのを感じ取る。志信の方は何度も内壁を擦られて、奥までゴリゴリと責められて中で達した後だった。
引かない波のように快感が続いているが、由貴の表情を見るだけの余裕がその日はあった。必死に絶えて腰を打ち付ける由貴に愛しさがわいてくる。
「ユキさん、キス……」
「んっ、志信、さ……んんっ」
首を伸ばしてキスしてくれる由貴に目を閉じると、快感で瞼の裏が白く明滅する。ぐねぐねと内壁が蠢いて中で達した志信に、由貴も志信の中で白濁を吐き出していた。
ずるりと由貴の中心が引き抜かれると一抹の寂しさを感じる。大量に吐き出された白濁がこぷりと志信の後孔から逆流して尻を伝ってシーツの上に零れた。
荒い息を整える由貴を志信は胸に抱きしめた。幸福感で涙が出てきそうになる。
「ユキさん、愛してます」
「僕も愛してる、志信さん」
クーラーを使っても汗だくになる夏の夜。
秋には二人式を挙げることが決まっていた。
シーツを剥がして体に巻き付けてバスルームまで走る志信と由貴の脚に、黒と白のブチと、灰色と白のブチの子猫がじゃれついてくる。
「みーさん、ごーさん、ダメだって」
「汚いから、離れてー!」
バスルームに入って鍵を閉めると、入口の前で「にーにー」「みーみー」鳴きながらドアを引っ掻いているのが分かる。見ていないときにバスタブで溺れるのが怖いので、二匹はバスルームには出入り禁止にしていた。
体に巻いていたシーツを洗濯機に志信が押し込めていると、洗濯機の脇の結ばれていないビニール袋に由貴が気付いた。
「志信さん、これ何?」
「あ! 見ちゃダメです!」
「え!? 夫婦の間に隠しごと!?」
止めようとした志信は後孔から由貴の白濁が太ももに伝って動きが鈍ってしまった。ビニール袋を開けた由貴は不思議そうに中身を見ている。
「ただの古いタオル?」
「そ、それは……」
「どういうこと?」
問い詰められて志信は渋々話し出した。
「俺、男の一人暮らしでタオルも何年使ってるか分からないバサバサのばっかりで……ユキさんと暮らすことが決まって、デパートにタオル買いに行ったんです」
「通りで志信さんのうちのタオルはふわふわのばっかりだったんだ!」
見栄っ張りなところがバレたと恥ずかしがる志信を、由貴は「可愛い」と目を細めた。
「前に使ってたタオル捨てられないところも可愛いし、僕のためにタオル買い替えちゃうところも健気で可愛い」
「三十路半ば過ぎの厳つい男ですよ?」
「志信さんは可愛い」
そんなことを言われると照れを通り越して有頂天になってしまいそうになる志信だった。
結婚式前に由貴の友人に紹介するついでに、志信の作品を買いに来たいということで、工房で待っていると由貴は数人の男女を連れて来た。
「初めまして、ユキさんの恋人の時吉志信といいます」
恋人だなんて大胆なことを言っていいのかとドキドキしながら志信が自己紹介すると、友人たちから声が上がった。
「『ユキ』って呼ばせてるの?」
「よく読み間違えられるから、『ユキ』って言われるの嫌いだっただろ」
「志信さんは特別なんだよ!」
自己紹介のときに由貴は「よくユキって間違えられます。ユキって呼んでください」と自分から言ってきた。友人たちも由貴のことは『ユキ』と呼んでいるものだとばかり思っていたから志信は自然に『ユキさん』と呼んだのだが、どうやらそうではなかったようだ。
「俺は、特別なんですか?」
「志信さんは僕にとっては全部特別だよ」
ちょっと照れたような拗ねたような顔で言われて、志信は恥ずかしくて座り込みそうになった。友人たちは「熱いね!」とか囃し立てている。
由貴にとってそんなに最初から志信のことが特別だったなんて初めて知って、志信は頭から湯気が出そうだった。褐色の肌で赤面しても目立たないことを幸運に思ったのだった。
「お幸せに!」
「これ、お祝い!」
由貴の友人たちは由貴に何か渡して帰って行った。
結構大きな箱を見て志信は何が入っているのか気になったが、箱を少し開けた由貴が慌てて閉じたので中までは見えなかった。
「ユキさん、それ……」
「いいものなんだけど……志信さん」
「はい?」
「家に戻ろうか」
工房から家まではすぐである。歩いて戻ると通り抜けられない柵を二匹の子猫がカリカリと引っ掻いていた。
「みーさん、ごーさん、ただいま」
玄関をしっかりと閉めてから柵を開けて、逃げ出そうとする二匹を捕まえて志信はリビングに続く廊下を歩く。柵は由貴がしっかりと閉めて鍵をかけてくれていた。
離乳食の入った餌の皿は空っぽで、二匹の子猫は下ろすと餌の皿の前に行って「にーにー」「みーみー」と催促する。子猫用の柔らかい餌を出してやると、がっつくように食べ始めた。
「雑種っぽいですけど、大きくなりそうですね」
「そうだね……志信さん、シャワー浴びない?」
まだ日は高い。
こんな時間からお誘いかと胸を高鳴らせてバスルームに入った志信に、由貴はもらった箱を抱えたままバスルームに入って来た。
箱を開けて見せる由貴の顔が赤い。
箱の中には赤い花の刺繍の女性ものらしきブラジャーとショーツ、それにガーターベルトと赤いハイヒールが入っていた。
「これ……」
「志信さんの体のサイズを大まかでいいから教えてくれって言われたから、おかしいと思ったんだ」
「え? 俺にですか!?」
長身で逞しい体付きの自分がそれを着ることなど想像できず、自分とは結び付かないでいた志信に、由貴は脱衣所の床に膝をついた。手も付いて、額を床に擦り付ける。
いわゆる土下座という姿だ。
「着てください!」
「ふぁー!? 俺が、これを着るんですか!?」
「お願いします!」
本気で由貴が頼んでいることは土下座をしていることからもうかがえる。そういう趣味は一切ないのだが、由貴がそこまでするのならば、若干引きながらも志信は応えるしかなかった。
「わ、分かりましたから、顔を上げてください」
「着てくれるの?」
「着ますから、シャワー浴びたら着て寝室に行くので、ベッドで待っててください」
着る姿は恥ずかしくて見せられないという志信に由貴は食い下がる。
「慣れないヒールで転んだら危ない」
「じゃあ、バスルームの外で待っててください」
譲歩すると由貴は嬉しそうに鼻歌交じりにバスルームの扉の外に立った。シャワーを浴びて後ろも念入りに洗ってから、バスタオルで身体を拭いて、志信は恐る恐る箱の中から下着を取り出す。
ショーツは前の布地が少なくてはみ出そうだし、後ろは紐のようになっていてずらせば後孔が見えてしまう。ブラジャーは乳首を隠す程度しか布地がない。ガーターストッキングは履いている途中に破いてしまいそうになるし、ハイヒールは履いて動けるようなものではない。
歩けなくて壁に手をついてよろよろしていると、由貴が入って来た。はみ出そうな中心を見られたくなくて隠すように背を向けると、由貴が背中にくっ付いてくる。結果として壁に押し付けられるような形になってしまった。
「志信さん、よく見せて?」
「ゆ、ユキさん……当たってます……」
友人が来るので着ていたスーツのスラックスを押し上げて由貴の中心が興奮して股間を押し上げているのが、ほとんど丸見えの志信の尻に当たっている。後ろから抱き付かれているような形になっているので、よく見せても何も、動くことができない。
するりとブラジャーの布地の隙間から由貴の手が入って来る。乳首を摘ままれて捏ねられて、志信は腰をくねらせる。
「あぁっ! ユキさん、ここじゃ……」
「我慢できない! 志信さん、このままさせて?」
どこまでも志信は由貴に弱い。甘えた声で囁かれると、ハイヒールで立っているのもつらいのに、このままでもさせてしまっていいかという気持ちになる。
胸を弄られて由貴に慣らされた後ろが濡れて来る。志信が自ら紐をずらせば後孔はすぐに露わになった。
「いいですよ……もう、仕方のないひとですね」
「あぁ、もう、大好き」
「俺も大好きですよ」
もうキて。
囁きは口付けに飲み込まれる。スラックスの前を寛げた由貴が取り出した中心の切っ先を志信の後孔に当てている。念入りに洗ったし、胸に触れられた刺激で濡れているそこは、くぷりと誘うように由貴の先端を飲み込んだ。
「最高にいやらしい体」
「誰がっ、そうしたんだと……」
「僕。僕以外が志信さんに触れたら、嫉妬で狂って死んでしまう」
可愛いことを言いながらも、由貴は後ろから責める腰を止めない。最後まで飲み込むと、由貴が息を吐いて胸に触れ始めた。快感に力が抜けてがくがくと膝が笑うが、由貴よりも体重がある自覚はあるので志信はもたれかかることができない。
かりっと志信の指が脱衣所の壁を引っ掻いた。それを合図にするように、由貴が下から突き上げる。
「ひぁっ! あぁぁ!」
「すごい、締め付け……」
「だめぇっ!」
乳首を引っ張られながら、恥ずかしい格好で由貴に脱衣所で抱かれている。がくがくと笑う膝をどうにもできないまま、志信は散々由貴に突き上げられた。
寝室に行くまでもなく抱き合ってしまって、どろどろになった体をシャワーで流す。
「志信さん、こっち、あまり反応しなくなったね」
「それは、抱かれる方だからじゃないですか?」
「僕の女になったってこと?」
最近は勃ち上がってもとろとろと透明の雫を零すだけで達しなくなった中心に触れられて、志信は目を伏せた。
「ユキさんの女ですよ、最初から」
由貴に抱かれて志信は後ろも濡れるようになったし、妊娠も望むようになった。
出会った瞬間に運命だと分かったように、こうなるのも時間の問題だったのだ。
「お腹空いたね。何食べたい?」
時刻は夕暮れ時になっていて、シャワーから出ると志信は脱力してリビングのソファに座り込んでしまった。今日は由貴が夕食を作ってくれるようだ。
何をリクエストしようと考えるのも幸せで、足元に寄って来た二匹の子猫を志信は膝に抱き上げた。
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