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第14話

「ん……」  カーテンから差し込む朝日に目を細めて、起床する。身動きをとろうとして、背中に何かがあたった。はっとして後ろを振り返る。 「おはよう。昨日はよく眠れた?」  起きたての、掠れ声の相良さん。なんだか、色気が出ているような……。僕は「はい」と返事をしてベッドからするりと降りる。相良さんはまだ横になっていて、僕のことをじっと見つめてくる。墨で溶いたような真っ黒の瞳。そんなに見られると……緊張してしまう。 「ここのホテル、朝食ビュッフェ付きだから良かったら一緒にどう?」  緊張している僕をよそに、ホテルの勝手を知っている相良さんは余裕ありげで。これが大人の余裕ってやつなのだろうか。返事の代わりに、ぐぅぅと僕のお腹が鳴った。無意識に腹の当たりを手で隠そうとすると、相良さんは喉を震わせて笑った。もう見慣れた、目の横にできる笑いじわ。見てると、僕も自然と笑顔になれる。  幸い、スーツのジャケットやスラックスは乾いたらしい。2人、ベッドの反対側で背中を向けあって服を着る。ただ、服を着ているというだけなのに、布ずれの音が耳について恥ずかしくなる。僕は今日は仕事は休みだから、少し肩の力が抜ける。それに、せっかく出会った縁だ。相良さんともう少し一緒に話したい。 「ほら。これとか、どう?」 「おいしそうですね」  相良さんが備え付けのトースターでバターロールを焼いてくれる。ビュッフェ会場には、10人ほどの客がいた。みんな1人で食事をしている。僕はなんだか2人でいることが恥ずかしくなって、自分のジャケットの襟を掴む。

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