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第20話

「っお待たせしました」  やばい。駅から走ってきたから、息切れが。バーに入ると、この間と同じ席に相良さんが座っていた。「やぁ」と手を挙げて声をかけてくれる。僕はこめかみから伝う汗を拭きながら、相良さんの隣の席に座る。バーカウンターの椅子は高いから、僕は腰掛けるのに足先いっぱいまで伸ばさなければならない。椅子に座っても足が床についている相良さんのことが羨ましくてしょうがない。僕なんて、足つかなくてぶらぶらだよ。内心そう思いながら、目の前にいるマスターの町丘さんに挨拶をする。 「こんばんは」 「こんばんは。こないだの子だね……今日は閉店時間を確認しておいてくれよ」 「……すみません。気をつけます」  ぺこぺことお辞儀をしていると、隣で相良さんが口に手を当てているのが見えた。どうしたんだろうと思って、その顔を仰ぎ見る。くくく、と喉を震わせているらしい。 「先生に叱られた学生っぽくて……そんな顔しないで」  僕は、無意識に顔がむ、としていたのだろう。すかさず、相良さんからフォローが入る。相良さんにだったら、こういうこと言われても案外悪い気はしないかも。そう思って、 「怒ってませんよ」  と伝える。相良さんは、ふうとため息をついてこちらを見つめた。 「お腹すいてる?」 「はい。ぺこぺこです」  お腹の当たりを撫でながら言うと、相良さんはぱっと顔を輝かせた。すぐさま町丘さんを呼ぶ。 「トマトとモッツァレラチーズのオリーブ漬けと、合鴨のオレンジ添え、シュリンプサラダももらおうかな」

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