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第23話
「俺の連れから離れろ」
ドスの効いた低い声。姿を現したのは、相良さん? こんな怖い声出せるの? 相良さんの瞳は狐のように細められている。怒ってるんだ。Domは他のDomに対して glare と呼ばれる眼力を出すことがある。縄張りを侵された時や、威嚇する時などだ。また、Subに対して言うことを聞かせたい時などに発することもあるという。僕は職場の人のglareくらいしか見たことない。そのときは、体ががくがくと震えたり冷や汗がどっと出るだけで、体が勝手に動くなんてことはなかった。けれど今、確かに僕は相良さんのglareにあてられている。恐怖と、従属の意を表しているのだ。2人の男は、びくりと肩を揺らしてその場から立ち去った。glareを浴びた弱い方のDomは、威嚇に負けて体が震えたり、体調が悪くなるほど追い込まれるのだという。
僕、こんな格好したことない。恥ずかしくて……恥ずかしくて……もうどうにでもなれ。
相良さんが僕の手のひらをとる。
「怯えさせて、ごめん。手当するから俺の家にーー」
相良さんが言い終えるのを待てずに、僕の意識はぷつんと途切れた。きっと、血を見て気分が悪くなってしまったからだ。意識を失う直前に感じた花束みたいないい匂い。その匂いが誰のものであるかはもうよくわかっていて。その匂いに安心して、身を任せた。
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