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第76話

「声かけたのに返事がないから、何事かと思ったよ。俺にも見せて」  スマホを持った手を引き寄せられる。ソファに座る僕と違って、ソファの後ろで背中を屈める相良さんの影が僕の顔に落ちた。顔、近いな……。 「へぇ。雛瀬くんこういうの好きなんだ」  大好きな相良さんの、少し低い声。 「はい……動物が好きで……」  相良さんは急に押し黙る。僕はなんだろうと思って、その顔を仰ぎみた。あ、だめだ。これ。この顔はーー 「じゃあ今日は動物ごっこをやってみようか」  たぶん、いや、この流れは間違いなく……恥ずかしいことをするんだ。僕は相良さんの目の奥がぎらぎらと光るのを見逃さなかった。 「じゃあ、準備してくるから待ってて」 「……はい」  今日は何をされるんだろう。家に来るってことは、その……そういうことをするよって意味かもしれないけど。僕と相良さんはmateになってまだ2週間しか経ってない。普通のmateがどんな流れで関係を深めていくのかは知らないけど、たぶんこんな風にお互いのことを知っていくっていうのが通例なのかな。僕の反応で相良さんはわかってると思うけど、僕はこういった行為は初めてだ。だから、余計に怖い。自分の体に起こる新しいことに、しり込みしてしまうのだ。 「おまたせ。じゃあ、こっちに来て」 ーーああ。ほんとうに始まるんだ。  僕は不安とそしてひとつまみくらいの期待を胸に相良さんに近づいていく。両手を広げてくれるから、その中にすとんと入り込んだ。さわさわと髪の毛を撫でてくれる手の優しさ。僕のことを慈愛の満ちた目で見てくれる眼差し。そのどれもが、僕の心と身体の緊張をほぐしていく。2分ほど抱きしめられたところで、相良さんにそのまま抱っこされた。すたすたと足早に歩いてリビングのソファの前、ローテーブルを移動した絨毯の上に優しく落とされる。 「今から雛瀬くんは猫になってもらうから。飼い主の指示をよく聞いて行動してね」  僕の飼い主は相良さんーー。僕はこくりとうなづいた。

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