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第78話

「はあっ」  僕は息も絶え絶えに残り3分の1までは飲み干した。もう、無理……これ以上飲んだら吐く……。気持ち悪さに胸を抑えていると、相良さんが動いた。 「もう無理?」 「ごめんなさい……もう無理でーー」  相良さんは僕を見て微笑んでいる。ああ、よかった。許してくれるんだ。でも、そう思ったのは間違いだったらしい。 「んっ……ぐっ……」  相良さんは皿に入った液体を全て口に含むと、僕に口付けてきた。舌先が触れる。それと同時に、相良さんの口の中にある液体は僕の口の中に入ってきて。溺れる、と本気で思ったのは初めてだった。当然、飲み込めるわけない。僕は相良さんの唇から無理やり口を離す。ぼたぼたと飲み込めなかった液体が台を濡らした。床にこぼれ落ちてしまっている。 「せっかく俺が飲ませてあげようと思ったのに。じゃあ、零したやつを舐めて綺麗にして」 「っ」  なんて冷酷なことを言うんだろう。僕は前で揃えた両手を掴み、小刻みに震えた。今日の相良さん全然優しくない。怖い……。でも、また相良さんをがっかりはさせたくない。僕は台の上に飛散した液体を舐め始める。舌先が熱い。もう、お酒のせいで視界も眩んでくる。ほんとに、お腹が苦しい。台の上の液体をなんとか飲み干すと、今度は床に目をやる。これも、舐めなきゃだめなんだろうか。 「雛瀬くん……わかるよね?」  ほんとに? さも、当たり前かのような言葉に耳を疑う。僕はいそいそと台上から降りると、またおすわりをして床に落ちた液体を舐め始めた。はたから見たら異常だ。相良さんに見られている……僕がずるをしてないか見張ってるんだ。自分の中で緊張が高まっていく。ばくばくばくと震える心臓の音と、ぴちゃぴちゃぴちゃと舌先から発せられる音だけが耳に響いた。

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