1 / 110

第1話

 1ー1 『渡り人』の御用聞き   かつて、俺が冒険者を目指してカナンの村を飛び出したとき、俺は、まだ若くて未来は無限に広がっているのだと信じていた。  なぜなら、俺は、村では、優秀な魔法使いであり、剣士だったからな。  魔力量も、村の計測器じゃ計測できないぐらいで、俺は、てっきり自分がすごい存在なのだと思い込んでいたんだ。  だが、じきにそんな夢見る心も折られてしまった。  ジストニア王国の王都サリアンの冒険者ギルドにおいて、俺は、最底辺の冒険者でしかなかった。  俺には、テイマーとしてのスキルしかなく、それ以外は、まったく見るべきところはなかった。  しかも、そのテイマーとしての力もまた、冒険者としては、役に立たないものだった。  当時のギルド職員たちは、俺に冒険者をやめることを進めてきた。  だが、俺は、夢を捨てることもできなかった。  結局、俺は、それから30年近く薬草採集に勤しんでから、冒険者を引退した。  引退後は、長く付き合いがあった冒険者ギルドの職員に採用され、なんとか細々と生きていっていた。  そんな俺に転機がやってきたのは、俺がギルド職員になってから数年後の春のことだった。  突然、俺が『渡り人』の世話役に任命されたのだ。  『渡り人』とは、異世界からやってきた人々のことをいう。  たいていは、『渡り人』は、神に愛され信じられないようなチートな能力を持っているものだった。  そして、このジストニア王国においては、『渡り人』は、保護されるべき存在とされている。  そういうわけで。  俺は、43歳にして初めて、日の当たる場所を与えられることとなったのだった。  だが、俺に王国よりの任命状を渡すときのギルド長は、俺を憐れむような眼差しで見つめていた。  「いいか、ティル。悪いことはいわん。ヤバイと思ったらすぐに断って帰ってこい。それは、決して恥ではない」  だが、俺には、まだそのギルド長の言葉の意味は、理解できなかった。  ただ、たかが『渡り人』の御用聞きぐらいで大袈裟な、と思っていた。  だが、もしも、このときの自分に忠告することが許されるのなら、俺は声を大にして言いたい。  はやく、逃げろ!  とにかく、できるだけ遠くへ!  

ともだちにシェアしよう!