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第36話

 3ー8 旅立ち  俺は、ため息をついた。  なぜか、無性にマイルズに会いたくなった。  寡黙で何を考えているのかわからないマイルズ。  俺を息子と呼んでくれた男。  俺は、自分の不義理を恥じていた。  マイルズに謝りたい。  俺は、奥様と冒険者ギルドに別れを告げることを決めた。  帰ろう。  あの何もない村へ。  俺は、夕食の時に奥様にこのことを伝えた。  「つまり、村に帰りたいから仕事を辞めたい、と?」  「はい」  俺は、テーブル越しに頷いた。  奥様は、変わった方で使用人である俺と一緒に食事をとりたがった。  だから、俺は、いつも一緒の食卓についていた。  だけど。  俺は、気持ちが悪くって何も食べられなかった。  ずっと果実水ばかり飲んでいる俺に、奥様は、ため息をついた。  「ティル、あなたのそれは、つわり、というのよ。わかる?」  「はい、奥様」  俺だってそれぐらいのことは理解できていた。  「しばらくすれば、落ち着くと思います。大丈夫です」  「違うでしょ。私が言いたいのは、そんなことじゃないの」  奥様がイライラした様子で俺を指差した。  「あなた1人でどうやって村まで帰るっていうわけ?行きだおれちゃうのがおちよ!」  行き倒れ、か。  俺は、 口許を歪めていた。  それもまたいいのかもしれない。  はぁっと奥様が大きな吐息をついた。  「ほんとにもう!決めた!私もいくから」  はい?  俺は、信じられないものを見る思いで奥様のことを凝視していた。  奥様は、 いつも俺には有無を言わせない。  「善は急げ、よ。明日の朝、出発するわよ、ティル」  マジですか?  俺は、力仕事ができなくなっている俺の代わりに獣舎に魔物たちの世話をしにきてくれている同僚の若いギルド職員スレイルに引き続き魔物たちの世話を頼むことにした。  スレイルは、俺と同じテイマーのスキルを持った奴で、しかも大のモフモフ好きだった。  「任せてください、ティルさん」  スレイルは、喜んで応じてくれた。  「ティルさんのいない間は、俺がここを守ります!」  そうして。  翌日、俺たちは、俺の生まれ育った村へと旅立つこととなった。  

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