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第23話
子供の成長というのはあっという間で、ピノは1歳の誕生日を無事迎えられた。
歩いたのは少し前、雅美の実家で2、3歩だけど歩いて、雅美の両親はとても喜んですぐに靴をプレゼントしてくれた。
今日は実家にある特別な場所……雅美と式を挙げた場所でチロ一家、うちの両親、雅美の両親、輝政、そして妖怪たちの中で特にうちと繋がりが深い妖怪たちが集まってくれてピノのお祝いをする事になった。
「まー」
まだまだぎこちない歩みでも、ピノは最近俺の抱っこを嫌がって雅美の後ろをついて歩いていた。
言葉はまだあまり話せてなくて、主に雅美を呼ぶ時にこんな愛くるしい声を出していたりする。
「ピノちゃん、本当に小さい頃の雅美にそっくりね」
「母さん、それ言うのもう止めてください、恥ずかしいです」
このやり取り、何度も見てるけど、俺は嬉しかった。
ピノは確かに雅美に似ていて、どんどん可愛くなっていくからだ。
「繫、その笑顔キモイって」
そんな様子を見ていた輝政にからかわれる。
輝政は俺とは別のホテルで働いていて、俺より1年先に父親になっていた。
「何だよ、それ」
「ホント好きなんだな、松若のコト」
「それは勿論。俺の気持ちはずっと変わらないよ。っていうか、その言い方何か引っかかるんだけど」
「ははは、悪ぃ悪ぃ」
実家を出て、職場のホテルから近い場所に家を建てた輝政。
出産祝いを届けつつ1度だけ遊びに行ったけど、奥さんと産まれた女の子と幸せそうに暮らしているように見えた。
お祝いの会。
それは、ピノの名前を発表する場でもあった。
「本日は私たちの為にご多忙の中お集まり頂きありがとうございました。また、沢山のお祝いを頂戴し、感謝の気持ちでいっぱいです」
隣にいる雅美とピノの前でカッコ悪いところは見せたくないって思った俺は、何とか噛まずに挨拶を済ませる事が出来た。
「この子の名前ですが、この慈圀谷をより良い未来へと導いていって欲しいという願いを込めて、そして……私の尊敬する兄のような人になって欲しいという思いを込めて、『魁登(かいと)』としました。どうぞよろしくお願い致します」
そう言って深々と頭を下げてから顔を上げると、そこに、一番後ろに、あの頃とほとんど変わらない姿の兄ぃが笑顔で立っているのが見えた。
『兄ぃ』
『俺と同じ『かいと』にしたんだな。どれだけ俺の事好きなんだよ』
『うん、俺の中で兄ぃはいつまでも最高だよ。だから息子には兄ぃみたいな人になって欲しい』
『……相変わらずだな、お前は。でも、嬉しいよ、繫……』
そう言って、兄ぃの姿は見えなくなった。
「繫さん、良かったですね」
ピノ…魁登を抱いていた雅美が俺に近づいて耳打ちしてくる。
雅美にも見えていた様だ。
「うん……」
泣きそうだったけど、何とか堪えた。
今日からまた、新しいスタートだ。
俺と、雅美と、魁登と。
この子の為に出来る事を、そしてこの地に生きる次期頭領として出来る事を、生命の限りやっていきたい。
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