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第11話

 玲子の身体を押し倒して口付けを落とす。玲子の唇はとても柔らかいから。伏黒佐波人の唇は少しカサカサしている。彼はそれを気にしていつもリップクリームをつけているのだが。こんな些細なところからも、俺は伏黒佐波人の影を見つけてしまう。集中しろと自分に言い聞かせて、玲子の着ているパジャマに手をかける。抵抗なく力を抜いて横になる玲子は、潤んだ瞳で俺を見上げている。  玲子の裸体を見る度に思う。綺麗だ、と。陶器のように滑らかな肌はシーリングライトの下で光沢を放っている。胸だってきっと大きい方で。玲子は専業主婦だが筋トレをするのが趣味だから、今日も引き締まったウエストが目に入る。俺のために身体を整えてくれているのだとわかっている。俺と出会った頃の玲子は今より少しふくよかな体つきをしていたから。俺の趣味がジョギングだと知ってから、休みの日の朝は一緒に走るようになったし、ストレッチも教えたりしている。そんな、俺を想ってくれる良い妻だ。  俺もパジャマを脱ごうと思ったところで、ぴたりと身体が止まる。そうだキスマーク。玲子に見られるわけにはいかない。俺は服を脱ぐのも時間が惜しいというような空気を出して、ズボンと下着だけ下ろす。ベッドの横にある棚からコンドームを取り出すと静かに装着した。  ゆっくりと、だが確実に玲子の熟れた中が俺のものを包み込んでくれる。その安心感といったら他では味わいようがない。夫婦の営みは月に1回程度。一般的に多い方なのか少ない方なのかはわからない。10年経っても玲子は老けないから。むしろ昔より垢抜けて美しくなっているようにも見える。  玲子の慎ましい喘ぎ声が部屋に響く。俺はそんな玲子のことが好きだ。愛しているし、これからも大切にしたい。それなのにーー。  脳裏に浮かぶのは今日の昼間にした伏黒佐波人との行為。俺はもともと女性にしか興味がなかったはずなのに、伏黒佐波人のせいで男の身体を受け入れるやり方を教わってしまった。

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