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第1話

幸せなんてどこにもない。 幸せを感じたこともない。 踏み潰される枯れ葉のようだと言うと感傷的にも程があるが、自分を言い表すなら「踏みつけられる存在」それだけだった。 『あいつが務めを果たさなかったから』 目を瞑れば今でも罵声が頭の中に響く。いくら声にしても自分の言葉は届かない。数が暴力となり、言葉の刃とともに自分に降り注ぐ。 恐ろしいほど誰もわかってくれない。 自分が自分であることを否定されたようだった。 「くそっ……」 頭によぎる思い出に舌打ちをして、サイドテーブルに置かれたタバコを取り出す。頭の中を紫煙で隠すように深く深くそれを吸った。 あそこを出て5年。 東京の街にも慣れてきた。ここは煩いほど明るく、雑多で、混沌としている。あの場所とは全くちがう。 それなのにどうしてだろう。あの頃のことは頭から離れたことが離れないのだ。 『宵様』 特にあいつの声音と視線は時間がたつごとに色濃くオレを縛ってくる。

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