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18 和馬視点

すべて聞き終わって吉田を帰したあと、和馬はひどい疲労感に襲われ立てなくなってしまった。痕跡を残さず行動するのは、想像以上に力を消耗する。これも、レイに悟られないようにするためだ。 「和馬、大丈夫ですか?」 座り込んだ和馬の肩を抱いて、竜之介は移動の術を開始する。ほんの少し浮遊感があった後、景色はもう見慣れた自宅になっていた。 「そう言えば、どこに行ってたの? 結界の近くで何かあった?」 和馬が吉田と話している時、竜之介はいつもなら和馬の近くで周りを警戒しているはずだ。それが途中から席を外し、どこかへ行っていた。 竜之介は微笑んで、何も、と応える。長年一緒にいたけれど、竜之介の考えていることは全然分からない。しかし、嘘を吐いていることだけは確かだ。 「竜之介、答えて」 和馬の瞳が金色に変わる。無理強いはしたくないと伝えても竜之介は無言のまま、静かに和馬を見つめるだけだ。すぐに諦め、別の方法で答えを探すことにする。先日も使った、風で辺りを探る術だ。 すると、紘一とレイの声がする。その意味を知り、竜之介がやったことの検討をつける。 すぐさまその風を切り、竜之介を睨んだ。 「竜之介。僕が帰ってくるまでこの部屋から出ることを禁じます」 和馬は金色の瞳で命じ、素早く自分を囲む風を作る。その間も、竜之介は感情の読めない表情で、和馬を見ていた。 「理由は後で聞く。人間の命をわざと危険に晒したことを反省して」 そう言って、紘一の元へと急いだ。間に合ってくれと思いながら飛ぶと、レイがまさに手を挙げようとしているところだった。 間に割り込んだ隙に空気の刃――つまりかまいたちだ――を仕掛けるが、読んでいたのか向こうも同じ攻撃を仕掛けてきた。防御結界を張りつつ、地面に降りた和馬は体が極端に重くなったのを感じる。 レイの本体が近いのか、禍々しい冷気が漂い、それだけで力が吸い取られるようだった。 この状態でレイとやりあうのは危険だと判断し、紘一の命を優先してここは逃げることにする。 紘一は和馬が突然現れたことに驚きつつも、やはり全身の力を抜かれたらしい、動けずにいた。傷付けられずにすんだ、と少し安心してしゃがむ。 紘一の身体に触れ、少し力を分けると、かすかに竜之介の風の匂いがする。 さすがに彼はレイが来ることまでは読んでいなかっただろうが、動けなくなるほど力を奪ったのは、紘一を本気で脅すつもりだったようだ。 (……いけない) 紘一が動けるようになったおかげで、レイによる体力を奪う術の効力は失ったようだ。 しかし今度は、和馬の力が暴走しそうになっている。何故かは分からないが、紘一の力が以前よりも数段増しているのだ。普段よりも激しい暴風が吹き荒れ、抑えが効かない。 逃げるのか、とレイが叫んでいる。しかし今は逃げなければ、この辺り一帯を吹き飛ばしてしまいそうだった。 何とか和馬のパワースポットに逃げて落ち着こうとしたけれど、それは治まりそうになかった。お守りの勾玉を握り、暴風を抑え込む。 「和馬っ?」 紘一は心配そうに見つめてくる。その黒い瞳に、強い暗示をかけて離れられなくしてやろうか、ととんでもない考えが浮かんだ。 「ごめんなさい。あなたは……あなただけは巻き込みたくなかった」 僕は何を考えているんだ、と目を伏せる。天使族はそれで何度も泥沼にはまっているじゃないか、と息を整えながら思う。 しかし、その後見た彼の表情に、その考えも揺らいでしまった。 じっとこちらを見て、一挙一動見逃すまいと、注意深く、熱くその視線は語っている。 (……だめだ、このひとは……) 紘一は自分の力に惹かれているだけだ、勘違いするなと言い聞かせる。力を使って言うことを聞かせるのは簡単だ、だけどそれだけはやってはいけない。 この、春の若草の香りがする彼の風が――彼が大切だから。 和馬もまた、彼に力だけではないところで惹かれている事に気付いてしまった。 「……どうして、俺は巻き込みたくなかったんだ?」 いじわるな質問をしないでほしい、と和馬は思う。たった今彼への想いを自覚したばかりなのに、どう言葉にすればいいのだろうか。 紘一は少し期待したような目でこちらを見ている。この質問にはこの先も、ずっと答えてはいけないのだ。だから質問返しをすることにした。 どうして危ない目に遭ったのに、他人のことを気にしているんですか。 「あなたは……」 しかし最後まで言うことはできず、佑平に邪魔をされてしまう。 話はそこで打ち切りになってしまい、仕方なく紘一を連れて家に帰ることにした。

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