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第32話

「お前、一人でしねぇのか? こんなにたっぷり濃……」 「必要なかったですから!」 下品な物言いを途中でやめさせると、英は大きく息を吐く。射精した後独特の倦怠感が出て、その場に座り込んだ。すると、手を拭いてきたらしい月成が、英を後ろから抱きしめる。 「お前、ホント可愛くねぇな」 そう言いながら、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる月成の行動が、矛盾してて笑ってしまう。 「ん……っ」 小休止かと思いきや、月成はまた愛撫を開始した。それもそうだ、達したのは英だけだから、月成はまだ満足していないだろう。 後ろからうなじを舐められ、ゾクゾクする。前に伸びた彼の手が、お腹をさすって上に来て、また胸の突起をいじりだした。 「あ……っ」 英が声を上げると、腰に当たっている月成がピクリと動くのが分かる。反応してくれているのが嬉しくて、同時に興奮する。 「四つん這いになれるか?」 耳元でそんな声がし、素直に頷いて四つん這いになる。月成に尻を見せる格好になり、かなり恥ずかしいので、布団に顔をうずめることにした。 「……っ」 しばらく月成は尻の肉を揉んでいたが、一瞬その手が離れ、何かの容器の蓋を開ける音がした。冷たいぞ、と一声あって、狭間に冷たい液体を垂らされる。 「前回は無茶したが……こうした方がまだ楽だからな」 そう言って、月成は入口にそれを塗り込んでいく。それがローションだというのは、すぐに気が付いた。 しかし、英もこの行為に慣れている訳ではない。月成がローションを塗る時にわざと指を少し中に入れてくるのだ。その度に体が硬直してしまう。 「怖いか?」 「いえ……」 英はそう答えたものの、緊張しているのを見抜いたのだろう、月成は英の後頭部にキスをすると、痛くはしないから、と優しい声で宥めた。 「とりあえず、広げねぇと入らねぇから入れるぞ」 「んっ……」 予告通り指が入ってきて、同時に液体も入ってきたのが分かった。指は中の液体を粘膜に塗るように動き、指を増やしていく。指が増えたら中を広げ、またローションを足す。その繰り返しだ。 「こんなもんか。どうだ? 痛くないか?」 「は、はい……」 指を中に入れたまま、そんなことを呑気に聞かれても、英は答えるのに精一杯だった。 すると月成の指は、出し入れを繰り返す動きに変わる。 (う……) 行為そのものを連想させる動きに、英は布団に突っ伏した。ゆっくりとした動きは次第にじれったさが募り、そう感じている自分に恥ずかしくなる。 (お、奥が……何だろ……) そうして指で挿入を繰り返しているうちに、月成が触れる、ある個所を意識し始めた。 最初は鈍い痛みだと思っていたのが、次第にむず痒いような、何ともいえない感触になる。 「ふ……」 短く息を吐くと、それは思った以上に熱を帯びていてビックリした。 いつの間にか英の分身は硬さを取り戻しているし、体も熱い。それに、そこから聞こえてくる水っぽい音も、英の性感を高めていた。 「英……お前、ここで感じてるのか?」 「んっ……」 意地悪な月成の言葉と同時に、中の指がずるりと入れられる。ますます布団に隠れたくなり、毛布を手繰り寄せて顔をうずめた。しかし、それがある意味失敗だったと気付く。 (あ、監督のにおいだ……) あのめちゃくちゃな性格からは像像できないが、布団は定期的に干しているらしい。干した布団の独特な匂いと、それに混じって月成の体臭が付いていることが分かると、ゾクゾクと背中に甘い痺れが走り、身悶えた。 後ろで月成が笑う。 「どこも敏感だな。ま、演劇やるには五感が冴えてた方が良いけど」 そう言ってまた英の奥を擦る。そういう意味じゃないだろう、とツッコミを入れたかったが、甘い声しか出なかった。 「さ、いい感じに蕩けてきたな。英、どの体位が良い? 選ばせてやる」 「ど、どれって言われても、あっ、やぁっ……」 「なんなら、このまま指でいくか?」 指の出し入れを早くした月成は、意地悪なことを聞いて英を困らせる。 嫌だと首を振ったら、今度は焦れるほどゆっくり動かしてきて、遊ばれてる感覚に、涙が浮かんだ。 「嫌だ、監督、遊ぶなよ……っ」 こっちは付いて行くのがやっとだというのに、初心者を捕まえてからかったりしないでほしい。 しかし、ついいつもの癖で監督と呼んでいるのに、今度は咎められなかった。 「……ったく、しょうがねぇなぁ。絶対力入れんなよ?」 いっぱいいっぱいだった英が、言葉の意味を理解するより早く、月成は指を抜いて自身をあてがってきた。 そして、すさまじい圧迫感を伴いながら、押し入ってくる。 「うあ、あああっ」 「……くそ」 あまりの苦しさに勝手に体が逃げようとする。それを月成が腰を掴んで阻止し、ゆっくりと楔を埋めてきた。 「あ、……はぁっ、はぁっ」 一度受け入れているとはいえ、本来使うべき場所ではないため、かなりの無理がある。 はぁはぁと息を上げ、苦しさを紛らわそうとするが、うまくいかない。 (それに、前よりきついっ) 丁寧な愛撫でふわふわしていた意識が一気に引き戻され、冷静に今の状況を知ろうとする。 本能で逃げようとする腰は月成のものすごい力で止められていて、多分、先端しか入っていないのだろう。 「やっぱきついな……おら、力抜けって」 「や、やってますっ」 うーっ、と唸ると月成はなだめるように英の背中を撫で、キスをしてくる。 抱きつくようにお腹に腕を回し、性器と胸を優しく愛撫した。 「あっ」 その愛撫に反応した英は、後ろがひくん、と動くのが分かった。それと同時に、月成も少し入ってくる。 「そうそう、そのまま。痛かったら言え」 耳元で囁く月成の声が少しかすれて色っぽい。どんな表情をしているのだろう、と振り向くけど、しっかりと見れなかった。 「監督……顔、見たいです」 ねじった首がつらかったが、懸命に手を伸ばすと、彼は指先にキスをくれた。そして、舞台の上でしか見たことのないような、優しい笑みを見せる。普段デリカシーがなくて厳しいことしか言わないくせに、こういう時だけそんな顔をするのはずるい、と英は思った。 しかし、彼も元役者だ。普段の顔は演技で、これが彼の本質なのだと直感で感じ取ると、体の奥がうずく。 「ちょっと待ってろ……全部入れてから変える。できるな?」 「はい……」 この瞬間、英はお互いに嘘偽りない、本当の自分を曝け出していることに、精神的な快感を覚えた。不思議なことに、そう思った瞬間、月成の楔は楽に受け入れられたのだ。 後ろで月成が喉の奥で笑う。 「稽古のときもこれだけ素直に聞いてりゃ可愛いのに」 「なっ……あんっ」 そもそも突っかかってきたのはそっちだろう、と英は思ったが、月成が体勢を変えてきたので、視線を向けることすらできなかった。そして、訳が分からないうちに体位を変えてしまう。 (これって……っ) 正常位というやつか、と英が照れていると、正面の月成とまともに視線が合った。 きゅう、と心臓が締め付けられ、体の奥の圧迫感が増す。

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