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03-18.

 ……その場限りの言葉なのだろう。  嘘ではないだろう。  だが、心の底から反省をしている言葉でもない。 「構わない」  レオナルドはジェイドから視線を逸らす。 「事情はあったとしても婚約を結んだのは伯爵家の意思だ」  ジェイドが望む返事ではないだろういうことは、レオナルドもわかっていた。 「それに次はないからな」 「……それは同意の上でも?」 「同意をするような状況になるとは限らないだろ」  なにを言っているんだと言いたげな表情をしながらも、レオナルドは果実を掴んで口の中に放り込む。次から次へと食べ始める。  明らかに様子がおかしかった。  ジェイドはそれに気づき、わざとらしくため息を零した。 「よく噛んで食べろよ。口の中が苦くなっても知らないからな」  ジェイドは出来る限り、優しい言葉を選び、宥めるように声をかける。 「その癖は止めないが、早い段階で改善できるように努力しよう」  急に口に入りきらないほどに食べ物を詰め込もうとするのは、精神的に追い詰められた時の症状の一つとよく似ている。 「それを食べたら宿に行こう」  その症状が出ている自覚はないのだろう。  下手に刺激をしないようにジェイドは笑顔を繕う。 「今日は伯爵邸に戻らなくていい。だから、落ち着いて、ゆっくりと食べるんだ」  ジェイドの言葉が届いたのだろう。  レオナルドは手を止めた。  ……なぜ?  頭の中の整理ができていない。  ……戻らなくてもいい?  十年以上の間、その言葉を聞いたことがなかった。  口の中にある果実を飲み込み、レオナルドはジェイドに視線を向けた。 「どうした?」  ジェイドは優しい顔をしている。  それはレオナルドにだけ向けられるものであると錯覚してしまう。 「……なんでもない」  また、食べ始める。  今度は一粒ずつ、ゆっくりと噛んで飲み込んだ。

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