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第6話 26番ルーム 解禁

 「あー!疲れたぁぁ、もう無理っす!」 最後の客を見送った店内で爽の声が響いてカウンターに突っ伏した。  「お疲れさま。今日はよくやってくれたね」  「と言うか、何で紘巳さんこんな時に限って仕入れに行くかなー?昨日お店があんな状態でしばらく休み無しだって自分で言ってたのに!」 ぶつぶつと文句を言いながら口を尖らせる。    腰に巻いたエプロンを外してテーブルに乗せた典登は手にした瓶を棚にカタンと置いた。  「実はさ……爽に言わなきゃいけない事があってさ」 いきなり深刻なトーンで話し始めた典登。  「えっ?何っすか?……改まって怖い。あっ!もしかしてクビっすか!え〜やだ!」  「いや違うよ。いいから聞いて」 親に(さと)された子供の様に肩をすくめた爽。  「今日、紘巳が行った仕入れってのはいつも販売しているオイルじゃないんだ」  「それは……どういう意味っすか?」  「26番ルームに使用するオイルだよ」  その言葉は爽にとても重要な意味を持つ。 ちょうど一年前この店を知り初めて訪れた爽は他でもなく26番ルームの利用者だった。  「……それはまた再開させるって事っすよね」 こくりと頷いた紘巳の目を見る爽は複雑な気持ちでいた。  爽を最後に26番ルームの扉は閉ざされたまま開く事はなくそれ以来、足を踏み込んだ者はいない。閉じた理由を紘巳に聞いても教えてくれない。 26番ルームが封鎖された原因は自分に落ち度があったからじゃないかとずっと疑っていた。  それでもこの店で働く事を許して迎え入れてくれた事で気持ちは楽になったが、どこかにモヤモヤした気持ちを抱えたまま一年は過ぎた。  「大丈夫なんっすか?俺がいても……」  「何言ってんの。爽は大事なDesperadoの一員だし、大丈夫だから再開を決めたんだ。紘巳が判断を誤った事ある?」  不安気な顔に笑顔が灯って爽は丸まった背中をピンと伸ばし典登に近づいた。  「俺これからも頑張ります!!」  「そう。じゃぁとりあえず閉店作業やってもらおうかな」  「了解っす!全部やります!」  その日の夜―― 26番ルームの再開はDesperadoのページでネット上で発表された。ただし大っぴらに公言するでもなく誰でも見れて知れる訳ではない。    何の変哲もない普通のお洒落なお店のホームページ。スクロールして下がっていくと "26"とだけ表記されたシンプルな文字に行き着く。 クリックするとIDとパスワードの入力を求められる。  IDとパスワードは人伝(ひとづた)いでしか知ることは出来ない。  "おい!26番ルームが復活だって" "どれくらいぶり?ワクワクする!" "ねぇ、誰か勇気ある人いない?"  26番ルーム専用チャットに人が集まり始め、次から次へと文字の羅列(られつ)が止まらない。  "でもさ、26番ルームを利用した人の話しって聞かなくない?本当に実在してる?"  "利用した人ってその後どうなってんの?"

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