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第56話 C-02 西名×琉加 ㉗

 あれから季節が巡って春になった。 飛び散る花粉にクシャミを連発しながら会場ホテルの入り口で来るのを准を待つ。  「ごめん遅れたっ!って何だよ廉、大丈夫かよ?そんなに酷いなら中で待ってりゃいいのに」  「いやぁ何となく一人で入るの勇気いるからさ。だって卒業してから15年も経ってて多分大体の人顔見ても忘れてるかもだし、こっち忘れられてるかも」  「顔変えるのを仕事にしてるやつが何言ってんだよっ、行くぞっ」  "東第二中学 同窓会"の文字が見えて受付にいた幹事の女子二人に近づくと机から目線を上げてこちらに指を刺して声を上げた。  「えっ!もしかして西名くんと矢代くん!?」  「こんにちわ。久しぶりだね!あー…っと木下と桜井!?」  この数ヶ月前に招待状を送ってくれた二人。すっかり大人になっていたが声を聞くとあの頃の教室の風景が目に浮かぶ。比較的目立つ存在の女子二人だったから忘れる事はないし、30代の今も変わらずリア充のオーラを放って若々しい。  「そうそう!覚えててくれて良かった。二人はあの時から仲良かったけど今でもそうなんだね。変わってない!なんか嬉しいな〜」  「中入ってよ。もうみんな大体集まってるよ」  中に入るとすでに和気藹々(わきあいあい)と話ながらグループが幾つか出来ていた。当時の仲良しグループだったり、必死に思い出そうと探り合ったりする同級生達も見て気持ちも高ぶる。  「大丈夫かな。僕ら浮いてないよね?」  「確かにな。みんなこの歳くらいだと結婚して親になってるし仕事でもそこそこの立場になってたりするしな。マジで独身、俺達くらいだったらどうする?」  「よくあるじゃん、ほら同窓会で再開し恋愛に発展するケース!准はしばらく彼女いないしもしかしてここで何かが起こるかもよ〜」  「別に俺はそんなつもりはないけどー…」  「とか言ってちゃっかり昨日美容院行ってるのバレバレだし、何で最近ちょいちょい美容の話聞いてきたのかなー?」  「そ、そうゆう変な下心じゃねーから!バーテンの最低限の身だしなみだよ!、、そうゆう廉は恋人いるから余裕でいいよなぁ〜」  「まぁね。そう言えば、、川窪はー…来てないか」  准がそう言って会場内を見回した。少し久しぶりにその名前を聞いたが今はもう病院でその名前を呼ぶ事はない。  川窪は病院を辞めた。突然の連絡で理由さえ明らかにせず去った彼女はその後どうしてるかしらない。  みんなに声をかけると"久しぶり""元気?"と15年ぶりの再会に自然とあれ頃にタイムスリップした。そして少しお酒も入って、あの頃の恋愛の話になる。  「そう言えば今日は来てないけど川窪さんって西名くんの事好きだったよねー!」  「はっ!!何言ってんの?違うよっ」    突然出てきた川窪の名前と根も葉もない噂に全力で拒否をした。もちろん川窪からそんな事言われた事もなければそんな素ぶりを見せた事もない。  「いやだって川窪さんの西名くんを見る目が違ったし、当時いつも一人でいた川窪さんに普通に話しかけて西名くんぐらいだったでしょ」  「だからって好きとは限らないよ」  「そうだ!女子の噂はならないからな!もしかして廉じゃくて俺を好きだったかもじゃん!?」  女子達は一瞬黙って笑い始めた。いわゆる不良グループにいた准は同級生からの認知度は抜群だったが、近寄る女子はいなかった。  「矢代くんの事はみんな怖がってたから絶対それはないよ!」  「マジかよ。認知度はあるけど人気度はなかったかー俺っ」  准は相変わらず軽快な喋りで場を盛り上げて中学の思い出話や今のみんなの仕事や生活の話になる。あっという間にパーティーはお開きの時間になり同級生に別れを告げてほろ酔いで准と二人でタクシーに乗る。  「……なぁ結局さ川窪は卒業してもずっと廉の事が好きで勉強して看護師になって、あの日偶然を装ってー…」  「もういいよその話は。もし、、そうだとしても別にいい。川窪の気持ちに気付かずに行動してた自分が悪いんだ」  「はぁー?何だよその色男発言は!?あぁ〜結局男は学歴と金かよ〜!こうなれば俺も何か一旗あげないとだな。じゃなきゃマジで結婚出来ないっ」  「准だって、店長に昇格したじゃん」  「まぁな。けどいつかは自分の店を持ちたいしまだまだだけど地道に頑張るわっ」    あとから兄が調べてわかった事だがあの写真を撮って送ったのは川窪だったらしい。准のバーに来たのも二人が居るのを知っていて来たと言うのも後にわかった。  「それじゃ廉、また連絡するわ」  「あっ!准、来週のアレよろしくなっ」  「大丈夫わかってるよ。任せとけ!」  自宅前でタクシーを止めて降りた准はそう言って家に入って行った。車内に残った僕は自宅まで行き先を告げ、窓を開けて入りこむ涼しい風で酔いを覚ますように目を瞑った。 ◆◇◆◇◆    「廉さん、お待たせ」  「琉加くん。カッコいいね!その服すごく似合ってるよ」  待ち合わせた場所に小走りでやってきた、ビシッとキマッた服装の彼に行った。  彼は大学を無事に卒業し教員試験にも合格。晴れて中学の教師になった。お互い"先生"になった僕たちはすっかり恋人同士で砕けて話すようになったしたまには喧嘩もするけどラブラブだ。  「何かクローゼットの奥で見つけてあったから着てみたんだけど買った記憶くて、、しかも絶対高い服!こんなの自分で買える訳ないんだけど……」  いつかのショッピングモールでプレゼントしたあの服。もちろん二人はいつどこで買った服かは覚えてない。就職祝いデートの誘いに着る服を探していると、ふと奥の方にひっそりと掛けられた服を見つけた。  「でも何だかわかんないけどこれ着ると、廉さんを感じるんだけどどうしてだろう?」  「僕を?うーんー…何でだろうね。あっ、着いた、ここだよ。友達が店長してるバーで今日は就職祝いしたいって言ったら貸し切りにしてくれたから楽しもう」  そう言って手を繋いで店に入ろうとドアノブに手をかけると彼がグイッと引っ張って引き止める。  「ん?どした?」  「廉さん、、ありがとうございます」  「何?どうしたの?かしこまって、、」  「廉さんに出会ってなければ、きっとこんな風に夢を叶えて笑ってる事はなかったと思うから」  「僕じゃない。琉加くんは自分で道を切り開いたんだよ。、、おめでとう!大槻先生」  そして二人は手を握って店の扉を開けた。  自身の進む道を開く扉は誰かではなく結局は自分の手で開くしかない。それでも開かない扉を開けるには"運命の人"と言う鍵を見つければいい。  開かない扉の前で立ち止まるより鍵を見つける旅に出よう。そしてその旅こそ美しくかけがえのないモノだといつか気付くだろう。          END

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