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最終話-1

 青白く月光が輝く夜。  目を覚ますと、すぐ横でクロが腕を組んでむすっとした顔で立っていた。いや、そんなんじゃない。  甲冑を脱いでいるが、刀を抜かんばかりに激昂し、猛烈に怒っている。  まさに鬼の形相というか、降魔の相というか、とにかく恐ろしい顔をしていた。 「……おい。どうみても、…………俺には事後にしかみえないのだが」  クロの声が怒りで尖っている。  ごもっともというべきか。  そうだともいうべきか。  俺はいそいそと起きあがり、正座した。  なんせ、浴室でも行為はとまらず、そのまま寝台に連れていかれ、もつれた糸のように絡みあってしまった。  意識が遠ざかりながらも抵抗しても、しっかりと開発された身体が敏感に反応を返してとまらなかった。ペットを散歩してきた側にとって卑猥極まりない行為だとおもう。 「ええっ、もう帰ってきたの?」 「ランス、どういうことか説明してもらおうか?」 「え〜、めんどくさいよ〜」 「面倒臭いならそのままでいろ。ソウタは服をきろ」 「……はい」  いそいそと、クロから手渡された上着を羽織る。  ランスは着替える気はないらしく、全裸のまますらりと脚を伸ばして、手枕のまま横になっている。 「一発やっただけじゃん。あっ、一発じゃないや。何発だろう。そうだなぁ、五発はでたかな。でもさ、メスイキをなんどもしながらたくさんだしたしね……っ」  そのときだ。  部屋中に音がどすんと響いた。  剣を引き抜き、迅雷の勢いで剣を落とし、ひらひらと羽毛が真上から落ちてくる。  目の前で、長い剣が寝台にまっすぐと突き刺さっている。 「いっ……」 「…………だまれ。俺が聞きたいことはそうじゃない」 「ええ〜。じゃあさ、なにを聞きたいの?」 「同意は?」  クロは質問をはね返した。目が怒りで燃えている。 「は?」 「同意はあったのか?」  クロは激しい目で睨みつけて、刺さっているものを持ちあげた。そして剣を正眼にかまえて、いまにも斬りかかりそうだ。 「あるわけないじゃん。そんなのどうでもいいじゃん〜」  クロはランスに先鋭な切先を突きつけた。ぎろりと凄まれて、ひっと横にいる俺は飛びあがる。 「だまれ。俺にとっては大事なことなんだ。ソウタの高潔な貞節を汚し、強引に奪ったことは許すことはできない。処女を奪ったんだぞ」  いや、ケツに処女はない。  だけど俺の尻を大切にしてくれてうれしい。いや、いやいやいや。奪うとか貞潔とかちょっとわからない。 「ちょっ……」 「ソータのはじめてもらってごめんね〜?」 「いい加減にし……」    ランスの挑発的なせりふに、握りを力をこめて掴み取っている。全身が、怒りでわなわなと震えている。  やばい、これはやばいやばい。  俺はどうどうと手をだして、思いとどめさせる。 「ま、まあまあ。……クロ、とりあえず剣は危ないからさ。……し、しまえよ」 「……………そうか」  不機嫌そうに眉をひそめ、苛々としながら剣を鞘におさめた。露骨に不満の表情をみせている。  ランスといえば、両手にぐっと上に伸ばしてあくびをしている。 「結婚の話もしちゃったし〜」 「俺は結婚などしない」 「え、なんで……」 「その話はすでに破談してる。許嫁はすでにいない。そもそも七年も国を出ているんだ。むこうは所帯をもって、りっぱな賢妻になっていると聞いている。それについてはランス、おまえにも言ったはずだ」  クロはうんざりと舌打ちをして、またかとあきれている。 「そうだっけ〜?」 「そうだ」 「そ、そうなのか。そうなると、ずっと童貞じゃん」 「……そうだな」  ぎろりとすごまれて、俺はしょんぼりと背を丸める。 「あ、薬飲ませてやったから、ソータはわるくないよ」 「どういうことだ?」 「痺れ薬を飲ませたんだよ。なんだかクロがあげた指輪を見てたらイライラしちゃってさ。指輪のせいで、僕のギフトが能力を増したみたい」 「……おまえのギフトのせいか」  クロの凛々しい眉がぴくりと上がる。 「そうかも。でもクロのギフトも増し増しですごいでしょ〜。なんかヤバノちゃんといるとギフトが累増していく気がするんだよね~」 「…………そうだな」 「は?」  ふたりとも見つめあって、頷きあっている。ど、どういうことだよ。  ギフト、執着って……。 「俺たちのギフトはやっかいなんだ。俺は獲物に対する熾烈な執着を持っている。それとランスは相手を放埓的に操りたいという性的倒錯性がそうだ」 「……は?」 「ちょっと人より性欲があって、閉じ込めたくなるだけだよ~。いわゆるヤンデレというかそんな感じかな〜」  なにそれ。  やばいやつじゃん。  おもわず、のろのろと尻が後退る。クロは静かに首を横にふって距離を縮める。 「ランス、おまえのはちょっとじゃない」 「だからさ、ヤバノちゃんといると満たされて、もっともっと気持ちよくさせて、監禁して貞操帯つけて喘えがせ……」 「それ以上はやめろ。黙ってろ」 「えー。だって僕の本望だよ。えっちなカラダだから聞いてほしいんだよ~」 「ランス、黙れ」 「はいはい」 「…………わ、わ、わ。こ、こえぇよ」  なんだ、このふたりは。  いままで一緒にいたのはなんだったのか。  剣の才能があるとか。  魔法や治癒能力があるとか。  体力があるとか。  そういうギフトじゃなかったのかよ……。 「わわっ、ヤバノちゃんひかないでよ~」 「…………ソータそういうことだ。だからランス、おまえは王都に帰れ」 「えっ」 「え〜っ!」 「おまえは帰って王妃の相手でもしてろ」 「やだよ~。ちょっと声をかけたら、執念深く蛇みたいにしつこくつきまとってくるし、ねちねち絡みついてくるし大変だったんだよ~。やきもちなんて焼いちゃって周りにも疑われるからこっちにきたのに~」  ランスはあまえた子どものようなすねた話し方で俺を持ちあげて膝の上に乗せる。 「なっ、なっ……」 「だまれ。さっさと荷物をまとめて王都へもどれ」 「やだやだやだ〜」 「え……っ……と」    話についていけない。  わけわからずに目をきょとんとしていると、クロが俺に視線を戻した。 「ランスが王妃と密通していることなんてだれでも知っていることだ。ソータ、このペテン師に騙されるな。こいつの貞潔なんてすでにない」 「へっ、じゃあ……」 「ちょっと、ちょっと〜! 密通なんてしてないよ〜。ちょっとお茶したり、お話しただけだし〜。歴とした聖騎士もとい童貞だったよ~」  本当かよ……。  じと……とした目でみると、ほんとに童貞なんだよ〜とつぶやいて、ちんちんを俺にみせつけるようにくいくいと腰を押しつけてくる。 「なっ……!」 「ほら、みてみて〜。きれいなピンク色でしょ? ベビーピンクだよ?」  視線を落とすと、ちょっと半だちになっているので、そこから目をそらす。 「やめろ、ランス。これからは俺とソータ、ふたりで聖杯を探す。どうせ俺に許嫁がいるとかなんとか吹き込んだんだろ。もう婚約破棄されてむこうは所帯をもっているのに、よけいなことを言うな」 「へ?」 「え〜! やだやだやだ。だってさ、指輪なんてあげるからだよ〜。どうせヤバノちゃんをひとりじめするつもりなんでしょ〜!」 「わっ、わっ……」 「やめろ。はなれろ」  ランスが全裸のまま抱きついてきたが、クロがかばって阻止した。ふたりで押し合って、無邪気にじゃれあっているようにもみえる。 「だまれ。これ以上おまえのあそびにつきあうつもりはない」 「え〜、三人でいいじゃん」 「……おまえは、ほとんど一緒にいないだろう」 「朝と夜はいるよ〜。そんなに怒ることないじゃん。もうせっかくだからさ、ソータに決めてもらおうよう」 「へ?」 「…………そうだな」  急に、ふたりがこちらへ視線をむける。

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