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第17話 ふたりで
健太君の家は居心地が良い。
「ね、健太君。健太君は子供何人ほしい?」
「はぁ?急に何言って…」
勿論それは健太君が綺麗好きだから散らかっていないとか、広めの間取りで窓から見える景色も良い、とか
そういう理由もあるけど。
一番はこの空間に健太君の匂いが染みついているから。
「…子供なんか作って、もしαだったらどうするんですか」
高い感染力、そして絶望的な致命率を持つ疫病は、今日も何処かでαの命を喰らう。
まだまだ油断できないこの世の中。αがこの世に居続ける限り病は消滅しないだろう。
確かに健太君の血を強く受け継いでしまえば、産まれる子がαの可能性も大いにあり得る。
が──。
まったく、健太君は本当に心配性なんだから。
「そんなの愚問だよ。…健太君との子供、俺が愛さないわけないじゃん」
俺が必ず助けてみせる。何度でも、何度でも。
あの日、健太君を助けたように。
「……俺、一人っ子で結構寂しかったんで…2人くらいがいいっすね」
「っへへ、りょうかーいっ!」
「わ、ちょ!!いきなりくっつくな!」
「健太君大好き~!!」
幸せって、きっとこういうことを言うんだね。
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あるΩは、このパンデミックに乗じてこんなことを言った。
「いつも横柄な態度をとっているαが悪い。
天罰が下ったのだろう」
しかしそのΩも、番えるαがいなければ半永久的に訪れる発情期と戦わなければならない。
あるβは、このパンデミックに乗じてこんなことを言った。
「これで役職持ちはいなくなった。俺がこの会社の頂点だ。俺がトップだ、俺が支配する」
しかしそのβも、αには到底及ばない能力でこれまでα達が築き上げてきた会社の歴史に幕を閉じる事となる。
あるαは、永遠の眠りにつく間際、こんなことを言った。
「この世は…俺たちを失えば近い未来、滅びてしまうだろう」
しかし、滅んだのは世界ではなく、Ωやβを蔑み、見下してきた彼自身だ。
皆が幸せになる世界。
皆が幸せだと錯覚する世界。
言い換えれば、幸せな者だけが生かされる世界。
世は麻痺し、もしかすれば本当に
αの死に際の言葉は真実になるのかもしれない。
が、そんなことは誰も知らないまま。
人々が不安に陥る様を嘲るように、今日も感染は止まらない。
Vanilla. 了
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