17 / 63

第17話 ふたりで

健太君の家は居心地が良い。 「ね、健太君。健太君は子供何人ほしい?」 「はぁ?急に何言って…」 勿論それは健太君が綺麗好きだから散らかっていないとか、広めの間取りで窓から見える景色も良い、とか そういう理由もあるけど。 一番はこの空間に健太君の匂いが染みついているから。 「…子供なんか作って、もしαだったらどうするんですか」 高い感染力、そして絶望的な致命率を持つ疫病は、今日も何処かでαの命を喰らう。 まだまだ油断できないこの世の中。αがこの世に居続ける限り病は消滅しないだろう。 確かに健太君の血を強く受け継いでしまえば、産まれる子がαの可能性も大いにあり得る。 が──。 まったく、健太君は本当に心配性なんだから。 「そんなの愚問だよ。…健太君との子供、俺が愛さないわけないじゃん」 俺が必ず助けてみせる。何度でも、何度でも。 あの日、健太君を助けたように。 「……俺、一人っ子で結構寂しかったんで…2人くらいがいいっすね」 「っへへ、りょうかーいっ!」 「わ、ちょ!!いきなりくっつくな!」 「健太君大好き~!!」 幸せって、きっとこういうことを言うんだね。 ──────────── あるΩは、このパンデミックに乗じてこんなことを言った。 「いつも横柄な態度をとっているαが悪い。 天罰が下ったのだろう」 しかしそのΩも、番えるαがいなければ半永久的に訪れる発情期と戦わなければならない。 あるβは、このパンデミックに乗じてこんなことを言った。 「これで役職持ちはいなくなった。俺がこの会社の頂点だ。俺がトップだ、俺が支配する」 しかしそのβも、αには到底及ばない能力でこれまでα達が築き上げてきた会社の歴史に幕を閉じる事となる。 あるαは、永遠の眠りにつく間際、こんなことを言った。 「この世は…俺たちを失えば近い未来、滅びてしまうだろう」 しかし、滅んだのは世界ではなく、Ωやβを蔑み、見下してきた彼自身だ。 皆が幸せになる世界。 皆が幸せだと錯覚する世界。 言い換えれば、幸せな者だけが生かされる世界。 世は麻痺し、もしかすれば本当に ‪α‬の死に際の言葉は真実になるのかもしれない。 が、そんなことは誰も知らないまま。 人々が不安に陥る様を嘲るように、今日も感染は止まらない。 Vanilla. 了

ともだちにシェアしよう!