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第27話 記者会見

 ――翌日。  俺はシュトルフと共に、午後から会見に臨む事になっていた。  王国新聞の他、大陸新聞の記者といった情報関連の人々、吟遊詩人、各国の大使や国内の有力貴族が聴衆として集まっている。  準備は昨日行い、朝からシュトルフとは、お互いの発言内容を打ち合わせした。  婚約の公表自体は、シュトルフから事前に聞いていた流れの通りであるし、リュゼル叔父上と宰相閣下が昨日、発言内容の原稿作成に手を貸してくれたため、そう緊張はしない。 「――と、いう事になり、俺は、ツァイアー公爵子息のシュトルフ卿と正式に婚約した」  俺が経緯を説明する。  多少盛られた原稿だ。幼少時よりの恋が実ったというのを、時折詩的に綴られていた。俺も似たような事を卒業パーティやその後に述べはしたが、それをよりロマンティックにした原稿を昨日作成した。俺は表情に気を遣い、なるべく幸せそうな顔を心がける。  実際、シュトルフへの想いに気づいた今、幸せでないわけではない。 「殿下のお気持ちを受け――」  続いてシュトルフが、シュトルフ側の決意などを発言し始めた。  シュトルフの横顔を伺うが、こちらは冷静な顔をしている。だが、その時不意にシュトルフは俺を見て――微笑した。不意打ちだったため、俺の胸がドクンと啼く。  魔導具カメラのフラッシュが、バシャバシャと俺達を照らした。  ハッとして、俺は赤面したままだったから、思わず俯いた。用意済みの発言であるから、内容は俺も知っているというのに、無性に嬉しい。  その後、シュトルフの発言が終わると、質疑応答の時間となった。 「率直に伺いますが、つまりクラウス第一王子殿下は、立太子せず即位もなさらないのでしょうか?」  記者からの質問も想定の範囲内のものだった。 「ああ。降嫁する」  俺は、頷いて断言した。するとまたフラッシュが沢山光った。  その後の質疑応答も乗り切り、俺達が会場を後にしたのは、昼過ぎの事だった。これから二人で昼食をとる事になっている。向かった先の俺の部屋には、既に食事が用意されていた。シュトルフと向かい合って座りながら、サラダにトマトが入っている事に気づいてしまった……。今度は、王宮のシェフにも伝えておいた方が良いだろうか……。  今後王宮で食事をする機会が増えるというわけではないだろうが、結婚式が終わるまでは、何かとシュトルフがこちらで食べる事もあると思う。出来れば、好物を並べたい。  いや……何を考えてるんだ俺は。  俺、シュトルフを好きになりすぎだろう!  いつから俺はこんなにも恋愛脳になってしまったんだ……!!  正面に座っているシュトルフをチラリと見る。実に優雅に銀器を手にした所だった。会見の場よりも、どこか表情が柔らかく見える。 「なんだか機嫌が良さそうだな」  思わず俺は呟いた。最近、ちょっとした表情変化が読み取れるようになってきた気がする。俺の言葉を聞くと、ロールキャベツを切り分けていたシュトルフが顔を上げた。 「当然だろう」 「?」 「大々的に、公的に、クラウスが俺の伴侶になると宣言出来たんだ。まだ実際に降嫁するまでの間は気を抜けないが、一応の外堀は埋め切ったと考えている」  どこか楽しそうな声音で告げられ、俺は思わず微苦笑した。 「気が抜けないて、俺は――」 「何があるか分からないからな。俺はクラウスに婚約破棄されない努力を精一杯する」  その言葉を耳にして、考えてもいなかったから、俺は驚いた。  確かに、俺にはクリスティーナとの婚約を破棄した実績(?)がある。なるほど、そういう考え方もあるのか。逆は、俺が王族であるからあまり無いようにも思えるが、そちらだって絶対にないとは言い切れない。 「俺も努力する」 「それは俺を好きになってくれる努力をするという事か?」 「ち、違う。シュトルフに、婚約破棄されない努力という意味だ」  好きに、だと? とっくに好きだ! だが、伝えるタイミング……! 「え、ええと……シュトルフ、あのな」  今、言ってしまおうか? そう考えて俺は口走り、続いて周囲に侍従や侍女がいると思い出して、言葉を止めた。皆、聞かないフリに長けているし、口外はしないだろうが……二人きりの時にしよう。羞恥がある。 「なんだ?」 「――王宮の庭園を見に行くと話していただろう? この後、日が暮れる前に行くか?」 「ああ」 「ほ、ほら! 今日は幸い、よく晴れているし」  思い出作り、と、シュトルフは話していた。どうせなら二人きりのそちらで伝える方が良い気がする。 「丁度、今朝、桃色菫が咲いたと報告を受けたんだ」  俺は、窓の外をチラチラと見て、天候の話題も模索しつつ、必死で述べた。  するとシュトルフが、優雅に食べ物を口に運んでから、小さく頷いた。 「そうか。お誘いは嬉しいし、王宮の庭園には王族の許可が無ければ立ち入る事も出来ないから、本当に誉だ。クラウスが良いというのなら、食後に是非」 「勿論だ」  まぁ確かにそういう決まりはあるが、幼い頃、祖父の許可のもと、敷地に入ったシュトルフと、一緒にいた俺は、何度か庭園で遊んだりもした。無論周囲にはお世話係の侍従達が沢山いたから、二人きりだったというわけではないが。  一度、俺はかくれんぼ中に眠りこけて、いなくなったと騒がれて、みんなに心配された事がある。あの時、シュトルフが鬼だったのだが、泣きながら怒鳴られたようなおぼろげな記憶もある。  こうして食後、シュトルフと共に、庭園に行く事になった。  なお、シュトルフは別に表情を変えるでもなく、サラダのトマトもきちんと食していたのだった。

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