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68.ずっと一緒に
頭に感じる温もりと、心地のいい一定のリズムを感じて僕はゆっくりと意識を浮上させながら重い瞼を持ち上げた。
「起こしてしまったかな」
「……ん……アデルバード様……?」
ぼんやりとする思考で、どうして彼がここにいるのだろうって疑問に思って、その瞬間ハッとして一瞬で意識が覚醒した。
飛び起きると、ごめんなさいっ!って慌てて謝る。
「疲れていたのだから気にしなくていいんだよ。私も可愛いリュカの寝顔が見れて得をしたしね」
「……恥ずかしいです……」
寝顔を見られた羞恥心に思わずそっぽを向いて抗議すると、アデルバード様がクスクスと楽しそうに笑って、そのせいで更に恥ずかしさが増した。
「部屋に呼んだのはリュカに聞いて欲しいことがあったからなんだよ」
「聞いて欲しいこと?」
なんだろう……。
首を傾げると、アデルバード様が僕の手を取って、手の甲にキスを1つ落とした。
唇を手の甲に添えたまま、アデルバード様の切れ長の瞳が真っ直ぐに僕を見つめてくるから、僕はその目から視線を外すことが出来ずにただ縫い止められた様に彼を見つめ返す。
「リュカが拐われた時、無事だろうかと不安で仕方なかった。傍を離れたことを幾度も後悔した」
「……アデルバード様……」
「もう、リュカを失う辛さを味わうのは懲り懲りなんだ。今後あんな思いは絶対にさせないと誓う。必ず一生守り抜いてみせる。だから」
アデルバード様の次の言葉を僕は黙ったまま待った。既に鼻の奥がつんとして泣きそうで、涙を必死に堪える。
「リュカ=エーデルシュタイン、私の大輪の花。どうか私と結婚してくれないかな」
初めて彼とあった日のことを思い出す。
あの日、彼はこんな風に僕の手を取って大輪の花だと言ってキスを送ってくれた。
あの日から随分と時が経った気がするのに、今でも鮮明にあの日のことを思い出せる。
アデルバード様と僕が出会ったあの日。
あの日、きっと全てが始まったんだって今は思う。
「アデルバード様、僕も貴方と結婚したいです」
涙が1つ落ちてシーツを濡らした。
嬉しくて、幸せで、僕は思わず目の前の彼に抱きついて、好きですって口に出す。
拐われた時、僕も何度もアデルバード様のことを考えた。
もう会えなくなったらどうしようって思う度に、きっと彼は僕を見つけてくれるって心を奮い立たせたんだ。
そして、本当にアデルバード様は僕を見つけてくれた。
「アデルバード様は僕にとっての一番星です」
「それは嬉しいな。それならリュカだって私にとっての一番星だね」
「っ…嬉しい」
アデルバード様の言葉に思わず破顔する。
ずっと誰かの星になりたいと思っていたから。
誰かを明るく照らせるような、輝く星になりたいって……。
だから、アデルバード様の星になれるなんて本当に嬉しくて光栄なことだと思う。
「一緒に幸せになろう」
「はいっ、アデルバード様」
笑いあってキスをする。
死が僕たちを分かつ時までずっとずっと一緒に居れますように。
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