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$2.正直者がバカをみる

 「えっと確かこのビルの4階、、あった」  スマホの地図通りに辿り着いたのは質屋。初人は二週に一度、溜まった盗難品を持って売りに行くのがルーティン。  売るお店は毎回出来るだけ場所を変えていた。同じお店ばかりだと顔を覚えてられても困るし怪しまれるからだ。盗んだ身分証の顔写真部分を自分の顔と掏すり替えて合計10枚程を使い回していた。  "いらっしゃいませ"と裏から出てきた店員に案内され、カバンの中からブランド品やアクセサリー数点を机に置いた。   「買取の際身分証が必要ですがお持ちですか?」  「はい、あります」  それから査定が始まって、店員はルーペでじっくり近づいて眺めたりパソコンの鑑定書と見比べたり念入りに見ている。 もちろんこの中に自分で購入した物なんて入っていないからいつどこで買ったかなんて聞かれても困るがそんな時の対処くらいはお得意の嘘でどうにでも出来る。  店内に二つの防犯カメラが設置されているのが見えて。帽子を深く被ってカメラに背を向けるように座って待つ。念には念を、いつでも最悪の状況を考えて行動するのが鉄則。  「お持ちいただいたお品物全て合わせましてこちらになりますね」    さほど時間をかけずに電卓をバチバチと慣れた手つきで叩いた店員が数字を見せてくる。たまにこちらが素人だからと少しズルをし安い金額を提示する店もあるが、2万8千円と表示された電卓の数字に初人も納得はした。 知らぬ間に身についた査定知識通りの金額だ。それでも少し色をつけてと小慣れた話術で強請(ねだ)と"それじゃ3万円で"で話はついた。  給料日でもあるこの日は少し奮発してちょっと高いお店で外出の予定。自転車の漕ぐスピードを速めてワクワクしながらアパートに急ぐ。 家は鍵が閉まっていて真っ暗で誰もいない様子。  「あれ?父さん、帰って来てないの?」  外食しようと伝えたけど忘れて何処かに出掛けているのか、スマホを取り出して電話をかけてみるが呼び出し音が鳴るだけ。  それから帰りを待ちながら一時間程経った頃、スマホに"父さん"の文字が表示されて明るく電話に出た初人だか何か違和感を感じた。  『あっ、父さん!?いまどこ?美味しいもの食べに行こうって、、 』  〈あのーもしもし?忽那初人さん?わたくし千葉西警察の者ですが〉  『、、警察……ですか!?』  〈はい。忽那清一さんの事で連絡しました〉  『父が何か、、?』    〈お父さんの清一さんが、傷害と強盗未遂で千葉西警察署に留置されています〉  頭が真っ白になって嘘だと思いたくても警察の話は淡々と今後の流れの説明を始める。悲しむ余裕もなく現実を受け入れるしかない状況だ。 今は弁護士以外が被疑者と接見することは出来ないと会うことすら許されない。  机の上の求人誌には清一が記した赤いペンの跡がいくつもあった。必死に仕事を探そうとしていたんだろう、至る所に書き込みがしてあり面接日時や時間がなどが記してある。 それを見た初人は悲しんでる時間なんて無意味と求人誌を伏せた。  『父さん、絶対に助けるからね』

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