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ピュア・ホワイト・ナイチンゲール②

 女? そう思った。  少なくとも、家族親戚にこんなやつはいない。で……家に入ってくるような女性も、もういない。 「誰、とはまた曖昧な質問だね。  キミが知りたいのはボクの名前かい?  それとも正体?  もしくはアイデンティティーとかかな?」  少しオクターブの高い声。しかしその声は、どこまでも…… 「なんだ、男かよ」  見目とのギャップに、思わずそんな言葉が口をついてしまった。  一瞬きょとんとした表情を見せた後、男は――いや、『青年は』というべきか――これ以上可笑しいことはないという風に笑いだした。 「はっはっは、人間というものは、つまらないことを気にするんだね。いや、失礼」  そう言いながらも、まだ可笑しさをこらえきれない様子だ。  ったく、何がそんなに面白いのか。 「で、お前誰だよ。ここで何してる」  さりげなくスマホを手に取る。110の準備はオーケーだ。 「いいよ、答えてあげよう」  青年はティーカップをソーサーに置くと、こちらに体を向けて、ゆっくりと、こう言葉を紡いだ。 「ボクは、死にゆく者の魂を集めるために存在している」  微妙な時間が二人の間を流れていく……  いや、微妙なのは俺だけのようだ。ダイニングチェアに座る青年は、満面のドヤ顔で俺の目を見つめている。  これ、絶対、係わってはいけないヤツだろ。200%の確信。  でも俺は博愛主義者だ。事を荒立てたくはない。ここは低姿勢で対応して、お帰りいただくとしよう。 「えっと、すみません。今、そういう気分じゃないので、ごめんなさい」 「折角答えたのに、つれない返事だね」  青年は全身でがっかり感を表現した。それが少しだけ気の毒に思える。  少しだけ。 「えっと、じゃあ、とりあえず、お名前を」 「ルース、だよ」 「職業は?」 「人間じゃないから職業なんてないよ。神様だからね」  何の御用で、と続けようとして言葉を止めた。  ガチで頭が湧いているんじゃないだろうか、こいつ。  そういやさっきも、『死にゆく魂がどうのこうの』とか、イミフなことを言っていたような。  ……まあ、でも、俺自身の置かれている今の状況を忘れるには、湧いているくらいの会話のほうがちょうどいいのかもしれない。  もう疲れた、考えるのをやめよう。美人だし……  そう思ってから、俺は自分の頭を抱えた。  こいつ、男だった――振られたショックがまだ消えてないんだな、俺。 「なるほど、死神さんなんですね」  とりあえず返した俺の言葉に、白髪の青年は少し顔をしかめる。 「死神とは心外だね。人間の命を取るんじゃなくて、魂を集めてるんだけど」  その違いは、俺には判らないな。 「あー、じゃあ、俺の魂を取りに来たのか?」 「残念だけど、キミはまだ死にゆく者ではなさそうだね」  残念だが、ってなんだよ、残念だがって。ってか、やっぱり取るんじゃねーか。 「じゃあ、何をしに?」 「キミが呼んだんじゃないか」  やれやれ感を体全体で表現すると、ルースと名乗った青年は、ティーカップに口をつけた。

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