「可愛いことを言う。今すぐ貫いてしまいたいくらいだ」 　くくっと揶揄うように笑ったが、その朱い瞳は、眼前の面を愛おしげに見つめ、細められている。 「だが、そうだな。この続きは閨に戻ってからするとしよう」 　華桜は、叶の合わせを軽く整え、両の腕(かいな)で抱えると、すくっと立ち上がった。 　片足を軽く上げ、一歩。トンと桜を踏むとシャンと小さく鈴のような音がする。 　二度三度と軽く跳躍を繰り返し、枝垂れ桜の大樹の頂きに立つ。彼が足をつく度にシャンシャンと鈴の音がする。 　大男に抱えられている姿は、余計に叶の華奢な身体が際立たせる。 　叶は、けして振り落とされることはないとは知っていながら、華桜から離れまいと、ぎゅっと彼の合わせを握り締める。 　一面の桜。 　頂きから見える景色は、何処までも桜ばかり。 　静かな夜に、ざわざわと桜の騒めきが聞こえてくる。 　囁きのように。 　忍び、笑う声のように。 　その景色を一巡りして。 「さあ、我らの閨へ戻るとするか」 　眼下にある社殿の屋根へと飛び移り、そして、その奥へと消えて行った。 　社殿は華桜の足がシャンと触れた瞬間だけ、輝きを放った。朽ち果て感のあったものが、神々しいまでに美しい社に変わる。 　星の瞬き程に、一瞬だけ。 　今は唯 ──── 桜の騒めきと、朽ち果てた神社が佇んで居るのみ。 　『桜の森』 　この辺りの土地は、遥か昔 　『桜守』 　と呼ばれていた。 　ここには『桜喰う鬼』の言伝えがある 　という────。 　　　　　　　　　　　　　　　　　了 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　最後までお読み頂きありがとうございましたm(__)m 　最近になって大昔の自作を発掘いたしました。桜を題材にした物語で、『樹の下』はそれをベースにしBＬテイストを加えて書きました。(元は木の下にいるのは女性でした💦) 　今より遥かに耽美を意識した文章で、そのまま文章も使いたいと思いつつ、一切使われるとことなく終了(^_^;) 　『樹の上』の二人は、以前から考えていたキャラで、お話自体はまだ考えていませんでした。今回少し書くことが出来て、私本人だけが楽しかった！というだけのお話でした💧 　いつか、ちゃんと二人の物語を書けるといいなと思っています。 　まだまだ未熟者ですが、これからも書き続けたいなと思っています。 　一人でも、読んで頂けたら、大変嬉しいです。 　あとがきまで読んで頂きありがとうございました。 　　　　　　　　　　　さくら乃