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アニマルセラピー⑰

side:遠藤静也 ───ゆいに幸せそうに笑っていて欲しいだけなんだ。叶う事なら、俺の隣で。なのに俺が悲しませてどうするよ・・・。 匠と結翔がカフェでプリンに舌鼓を打っている頃、1人家に帰った静也は自分の部屋に篭ってベッドに寝転がりながら自己嫌悪に陥っていた。 ゆいと喧嘩のようなものをしてしまった日から、あんなに好きだったゲームにも手が伸びない。 はぁ、と何度目かの大きなため息を溢した静也はゆっくりと目を閉じた。 ✱✱✱ 俺は小さい頃から寝るより食べるより何よりもゲームが好きだ。 だから昔から放課後は絶対直帰してたし、ゲーム中だと話しかけられても上の空で対応してしまう。 小学生の時はそれでもまだ良かった。類は友を呼ぶって事なのか、友人もゲーム好きばっかりだったし。でも中学で一気に成長した俺は謎にモテだしてしまった。 本来は嬉しい事なんだろう。でも俺は正直鬱陶しくて仕方なかった。 中学生になって成長したからって本質は1つも変わっていなかった俺は、相変わらず家でも学校でもゲームに明け暮れたかったんだ。その頃には携帯も買ってもらってたし。 でも周りがそれを許してくれない。 周りに侍る女の子達にひたすら甲高い声で話しかけ続けられる。 俺の席の周りには女の子ばかりが寄ってきて、逆に仲の良かったゲーム友達には避けられるようになった。 だから余計にソシャゲにのめり込んだんだ。アイツらとはもうゲームが出来ないだろうから。なのに女の子達は上の空だと勝手に怒って、酷い時には操作中の携帯を取り上げられて電源を落とされたこともある。 ゲームなんか静也君に似合わないよだとか、ゲームとか子供っぽいよだとか、私よりゲームの方が大事なのか、だとか。 俺にとっては余計なお世話だって事ばっかりでウンザリしてた。最後のに関してはゲームの方が大事だって普通に答えたら泣かせちゃったけど。でもただのクラスメイトより俺はゲームの方が大事だし。 そんな事が中学3年間続いてもう女って生き物が面倒になってしまった俺は男子校に行く事にしたんだ。 男子校だったらまた気の合う奴も見つかるかもだし、見つからなかったとしてもあんなふうに邪魔はされないはずだから。 幸い成績が良くないとPCごと没収だって両親に脅されてた俺は勉強もちゃんとしていたから、進学校だったこの男子校に入学できたわけだけど。 そうやって選んだこの学校で出会ったのが、俺が上の空だろうが付き合いが悪かろうが嫌な顔ひとつせずにニコニコしながら話しかけ続けてくれた良い奴過ぎる陸で。 陸はゲームとかには疎かったのに、何故かそんな陸と仲良くなるのに時間はあまり掛からなかったんだよな。 よく話すようになった陸に、匠が恋人なんだと教えてもらったのも割とすぐだったと思う。 今でこそ割と認められていると言っても良い同性同士のパートナーだけど、まだまだ問題もあれば心無い反応をする奴だっている。 そんな中俺に心底幸せそうに、そして凄く自慢げに自分の恋人を教えてくれたのがすげぇ嬉しくて。 ───俺は恋愛なんて面倒だと思って生きて来たからなぁ。なんかお前、格好良いな。 なんて言葉が思わず口を突いて出た。 それを聞いて照れ臭そうに笑った陸が匠の事を紹介するって言ってくれて、そのまま連れて行かれた先で匠と話していたのがゆいだった。 ゆいはクリッとした瞳をパチパチとしながら急に話しかけた俺と陸を見ていたかと思ったら、急にふわって笑ったんだ。 その笑顔に一瞬俺の時間が止まった。 すげぇ可愛かったんだよ、本当に。 ドクン、ドクンと強く打ち付けられる心臓の音に自分でも驚いた。 そっからはもう下り坂を転げ落ちるみたいに一瞬だった。 ゆいはただ小柄なだけの普通の男なはずなのに、くるくる変わる表情とかちょこちょこ後をついてくる可愛さとか人を思いやれる純粋で優しい心とか・・・ちょっと抜けてる所ですら愛おしくて。 あぁ俺、ゆいの事がどうしようもなく好きだなって、思ったんだ。 でもさ、俺思ったよりビビりだったみたいで。 ───ゆいにあの笑顔を向けてもらえなくなったら? ───ゆいの傍に居る事すら許されなくなってしまったら? もし俺の気持ちに気付かれてしまったらこの関係が崩れてしまうんだろうかって、すげぇ怖くなった。 だから冗談に聞こえるくらいの調子でゆいが俺を意識してくれないかなって、少しずつ少しずつ俺の気持ちを溢してみたんだけどゆいは思っていたより鈍感で。 でもいつも気付かれていないことにホッとしてしまうんだ。 多分俺、心のどこかでゆいに女との接点が無いからって安心してたんだと思う。 これからずっと女との出会いを潰していけばいつか俺でも良いやって思ってもらえるんじゃないかって。 どうしてゆいは俺以外の男を好きにならないって思ってたんだろう。 どうして俺はゆいの事を好きになる奴が居ないって思っていたんだろう。 体育祭の団の顔合わせの日、あのいけ好かない先輩と話すゆいの反応を見て愕然とした。 あの時も俺は一体何をしてたんだろうって自分で自分のヘタレ具合に眉間に皺を寄せて自己嫌悪に陥った。 本当に頑張らないとあっという間に掻っ攫われてしまう。 そう、思ったはずなのに。 それからも結局ビビっていつも通り流せてしまう程度のアプローチしか出来なくて。 なのにゆいの行動は一丁前に束縛したがるなんて。 「あー・・・。俺の馬鹿野郎・・・」 昼休憩、匠に言われた事が寝るまでずっと頭から離れなかった。

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