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第79話 ともに
エミリオがあまりにも泣き止まないので、ジェスは困惑するばかりだった。何を尋ねても謝るばかりのエミリオの頭の中が覗けるものなら覗いてみたい。そうすれば、この涙を止めることができるかもしれないのに。
「エミリオ、傷が痛むのか? それとも俺のせいか?」
両手を優しく握り、顔を覗き込みながら尋ねると、エミリオは首を横に振った。じゃあ一体何が理由なのか、無理矢理聞き出すのもエミリオを傷つけてしまうような気がして、もはや八方塞がりだ。
「……何か、俺にできることはあるか?」
「ジェス、さんっ……」
「ん?」
「僕のこと、嫌いにならないでください」
「……あ?」
唐突な言葉に、ジェスはわけが分からず間抜けな返事をすることしかできなかった。『嫌いになるな』だって? 愛しい愛しい恋人を理由もなく嫌いになれるわけないだろう、と言い返してやりたい。
また頭の中で勝手に考え込んでそんな言葉が出てきたのだろうが、この悪い癖はいつか治してやらないとな、とジェスは小さく息をついた。
「なーんでそういうことになるんだ? 俺はお前のこと、大好きだぞ」
「だって、僕、ジェスさんといるとどんどんわがままになって……」
「わがまま上等じゃねえか。好きな子のわがままなんて、俺にはご馳走でしかない……つうか、お前わがままなんて全然言わねえじゃねえか。どこがわがままなんだよ」
いつも自分の気持ちを素直に言わないエミリオが、わがままだなんて思ったことは一度もない。どうしてそんなふうに思うのか、ジェスは不思議でしょうがなかった。
「……自分勝手に、ジェスさんとずっと一緒にいたいって思ってしまいます……ジェスさんとこうして一緒に暮らせたらいいなとか、僕、勝手に……」
俯くエミリオの頭を、軽く握った拳でコツンと叩いてやった。
こんなふうに泣かれるくらいなら、わがままを言ってくれた方がまだいい。ジェスはベッドのふちに腰掛け、エミリオを抱き寄せてこめかみにキスをした。
「なあ、エミリオ」
「……はい」
「いい機会だし、このまま一緒に暮らすか」
一瞬、時が止まった。
エミリオは驚いたようにジェスを見て、言葉を失っている。
混乱しているエミリオが、可愛らしいと思った。愛おしくて、誰よりも大切な存在だと、ジェスは再確認した。
「俺がどれだけお前のことが大好きか、分からせてやるよ」
「えっ……え、っ……?」
「一緒に暮らせばすぐに分かる」
「ジェスさん、そんないきなり……一緒に暮らすなんて」
「俺がそれを望んでるんだ。お互いおんなじこと考えてたんなら、いいじゃねえか。それに」
ジェスは真っ直ぐエミリオの顔を見つめて言葉を続けた。
「そばにいれば、お前を守れる」
エミリオは心臓を鷲掴みにされた心地になった。
――ああ、やっぱり僕はジェスさんのことが大好きだ。
手を握られ、ゆっくりと優しいキスをした。
愛されていることを実感して、繋いだ手を握り返す。寄り添い合う二人は時を忘れてこれからはじまる希望に満ちた生活に想いを馳せた。
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