61 / 73
61.欲にまみれた者と穢れのない者
リューに強く抱きしめられる。
もう少し甘い展開のつもりだったのに、リューの真剣さに引っ張られてしまった。
例え自分がリューのバディとして相応 しくないとしても、離れたくない気持ちが溢れてくる。
「アリィ、俺のことを信じろ。そして、お前も自分を信じろ。俺は、お前のことも信じている」
「リュー……お前はカッコイイな。僕の汚い欲とは違って、本当に真っ直ぐで綺麗だ」
「お前の目は本当に腐っているな。俺の手は多くの血で汚れている。綺麗というのは穢れのない者へ使うべき言葉だ」
「いや……例え身体が血で汚れていたとしても、リューの心は穢れていない。今まで鉄の心で覆われてたしな」
互いに近い距離で会話し合うというのも楽しいものだ。
リューと話していると、自分の心も引き上げられるような気がするから不思議だ。
普段多くを語らないからこそ、言葉に重みがあるのかもしれないな。
「リュー、僕は……いや、今はやめておこう。リューが歩み寄ってくれたように、僕ももう少し何か変われたらその時に改めて話す」
「ああ。俺も自分自身のことを理解できない状態で今、話している。だから、結論を急ぐ必要はない」
「そうだな。今はリューの隣で眠れることを喜んでおくとするよ」
「そうか。では、今度こそ眠らせてもらう」
そう言い残して、リューは今度こそ目を閉じて開かぬまま静かに眠ってしまった。
寝つきがいいのはいいことなんだけれど、あとは悪夢に魘 されなければいいなと願うばかりだ。
「リュー、熱烈な告白をありがとう。無意識なんだろうけど、僕じゃなかったら皆勘違いすると思う」
あのリューがここまで僕のことを信用してくれるだなんて。
初めてリューと出会った自分に聞かせてやりたい。
(そして僕も。リューに惹かれてのめり込んでいくっていう訳だ。リューの心と身体を手に入れる前に、僕の心と身体がリューに捕らえられている気がする)
それも悪くないだなんて、僕はどうかしてしまったのかもしれないな。
僕の心の奥底で燻 り続けるこの感情は、本当に愛と呼んでもいいのだろうか。
だとしても、リューの様に純粋なものではなく。
執着に近いもの。独占欲だ。
「リューは僕の心を全て知っても、側にいてくれるのか?」
呟いて、僕もひと眠りすることにする。
うじうじと考えるのも疲れてしまうものだ。
普段の僕だったら適当に流してしまうはずなのに、リューの言うように睡眠が足りていないのかもしれない。
リューの願いだと、明日から訓練に付き合わされる予定だったはずだ。
それを飲もうとしているのだから、僕も随分リューに流されているのだろうな。
(サボるのが普通だったって言うのに、戦うことにも真っ直ぐ真面目なリューにこの僕が付き合う日が来るなんてな)
世の中にあり得ないということはないと聞いたことがあるが、確かにそうなのかもしれないと思う。
リューの側にいられるのならば、やりたくないことでも多少融通を利かせられるようになるだなんて。
これが僕にとって良い変化であることを願うばかりだ。
ともだちにシェアしよう!