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70.ギルド長の真意

   僕がリューも大変だなと苦笑していると、ギルド長が僕の頭までぐしゃぐしゃとかき回してくる。  リューと違って僕の髪は絡まりやすいから遠慮したいところなのに、力があるからなかなか引き離せない。 「そんな顔をしなくても、お前も息子みたいだから安心しろよ。アルヴァーノ」 「どんな顔を? って……いや、ギルド長のようなゴツイ父親は遠慮しておきますよ。お気持ちだけは……いただいておきます」 「そうか。まあ、これだけ兄貴をのしてやればお前の扱いも少しはマシになるだろ。それに俺は元々アルヴァーノに興味がわいたからメルセネールへ引き取っただけだ。厄介者とは思ってないから安心しろ」 「別に面白い人間でもないですが、どうせ僕が今までやってきたことも全部ご存じでしょうし。これ以上僕から言うことはありません。ありがとうございます」  ギルド長に一礼すると後は任せろと言われてしまい、お言葉に甘えて僕たちはさっさとメルセネールを後にした。  +++ 「リュー、体調に異常はないか? リューならあれくらいは大したことないかもしれないが」 「実践訓練は久しぶりだったが、動きは大分戻ってきたみたいだ。アルヴァーノこそ、自慢の髪が乱れているようだな」  珍しくリューが手を伸ばして僕の髪を整えてくれた。  その行為が嬉しくて、僕は思わずリューの額へキスをする。 「アルヴァーノ……何のつもりだ」 「いや……つい。リューにもお礼。僕の家のことを詳しく話したことはなかったとはずけど、兄さんとの会話で察してくれたのかと思ってな」 「俺もアルヴァーノのことを理解しようと観察していた。それに、ああいう(たぐい)は力で分からせた方が早い」 「今までは関わらないことしか考えてこなかったけれど、現実から逃げていただけだよな。元々快楽に溺れている僕が言うことじゃないけれど」  クスクスと笑うと、リューがくしゃりと頭を撫でてくれる。  リューなりに慰めてくれているのだと思うと、不器用な優しさで心のもやもやも晴れていく気がした。 「ねえ、リュー。今度こそ帰ろうか。リューとゆっくり話して……」 「訓練の件なら今、片付いたからな。この後の時間はアリィの好きにするといい」 「そんなに優しくされると調子に乗るけど構わないか?」 「いつも言っている。もう、慣れた」  リューと笑い合い、買い込んだ食料を持って歩き出す。  ただの買い出しのつもりが、思わぬ運動をする羽目になってしまったからな。  さっさと隠れ家に帰って、リューへの想いを伝えたい。  リューのことだ。人目があると素直になってくれないだろうから、そこまでは我慢することにしよう。    僕らは適当なことを話しながら魔導車を止めた場所まで戻ると、買ったものを座席の下へ詰めて行きと同じ体勢で帰路へついた。  少し陽が傾いてきたが、夜になる前には帰ることができるだろう。  身体を動かしたせいで少しお腹も空いた気もするし、帰ったらまずは腹ごしらえからだな。  さて、今日の祝いの料理は何にしようか。少し豪華にしてみるのもいいかもしれない。

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