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第12話 僕は指輪をもらった!

 結局槍は作らず、勇者達パーティを後日僕は見送った。  ラスカに、魔王に会ったことは言わなかった。言えなかった……。  少し頭の中を整理したいと思った。  そして――さらに二年が経過した。僕は十九歳になった。  最近「色っぽくなった」と言われる。  きっと大量に舞い込んできている縁談のどれかと結婚しろという圧力だ。  ただ、これまで断り続けていたのだが、今年の秋の誕生日パーティことお見合いパーティのみは、避けることはできなかった。理由は、誕生パーティ&婚約者選定パーティという名目で――夏に停戦条約が結ばれ、和解が進みつつある魔族側から、魔王その人が人間の国の公式行事に初めて顔を出す、という大イベントが同時にあるからだった。 「せっかくの誕生日なのにごめんな」  と、人間側の和解体制を整えていた兄上に言われたが、相手はラスカである。僕としては、むしろ嬉しい限りだ。そして、たった二年でここまで和解交渉を進めたラスカを僕はちょっと尊敬してしまった。  こうして開場時刻になり、みんなが集まりだした。  多くが、ラスカの姿を興味津々で見ていた。  まだ正式な挨拶前だったので、僕は入口脇のピアノのそばにいた。  すると、目が合ってすぐに、ラスカがこちらへ歩いてきた。  本当は、後でゆっくりと話そうと思っていたのだが、挨拶くらいは良いだろう。  兄上には、話しちゃダメだからなと何度も念押しされていたが、忘れる。  僕の前で立ち止まったラスカは、それから破顔した。 「悪い、十年待てそうにない」 「え?」 「俺のものになってくれ」  いきなりだった。  僕は、腕を取られて抱きしめられた。 「ちょっと待て!! 何をしているんだ!!」  そこへ激怒した兄上の怒声が飛んだ。こちらへ走ってくる足音がする。 「ユーリはダメだ! 人質になんかしないで幸せな結婚をさせると、兄として決めているんだからな!! いくら魔王が結婚を望んで、毎日手紙を送ってきてるからって、俺はこれだけは認められない!!」  その言葉に、僕は目を丸くした。 「結婚の手紙?」 「――ああ。ユーリ様を下さいと、攫うんじゃなく友好的にお願いしている」 「攫うなんて言葉をさらっと言うような相手に渡せるか!!」  それを聞いていた僕は、ハッとした。 「兄上、恋愛結婚なら僕しても良いということですか?」 「そちらは大至急してくれ! 和平の象徴の魔王の嫁はこちらで俺が責任を持って探す!」 「それなら僕ラスカのことが好きだからちょうど良いよ! 探さなくて良い! 僕はラスカが好きだ!」  僕が言うと、周囲に奇妙な沈黙が漂った。 「「「ぶは」」」  それから、僕の兄弟達が最初に吹き出した。  ま、まずい事を言ってしまっただろうか?  そう思ってラスカを見ると硬直していて、僕を抱きしめたまま、わずかに赤面していた。  おろおろと僕は周囲を見渡し、続いて半泣きの勇者を見つけた。  悪いことをした気分だ。 そう思っていたら、腕で涙を拭いてから、ウィズが言った。 「ユーリがそう決めたんなら、俺は応援する! ここまで旅をした限り、魔王側は本気で和解をする気みたいだし、悪いことなんて全然してなかった。オレが見る限り、悪い奴じゃない!」  そしてなんと、ウィズは、後押しまでしてくれた。  結果――この夜、僕は、魔王ラスカとの婚約が決定した。  その日の夜は、ラスカが久しぶりに僕を部屋まで送ってくれた。  昔はこれが普通だったのに、こんなにも懐かしいとは思わなかった。  だが、送った後に部屋の中に入ってきたことは、これまでには記憶にない。  目の前でしまる扉を僕は見ていた。軋んだ音の後、施錠する音が聞こえた。 「この部屋も懐かしいですね」 「……うん」  僕はここに来て、二人っきりである事と、真横に巨大なベッドがあるという事実に狼狽えた。廊下を歩いている時は、懐かしさしか考えていなかったのだ。  見守っていると、歩み寄ってきたラスカが僕を抱きしめた。  そして、僕は何かを言おうとしたのだけれど、何も思いつかないでいたその間に、ベッドの上へと押し倒されていた。一気に動揺した。 「再会してから、ずっとこうしたかったんだ。我ながらどうかしたのかっていうほどにな。中身は子供のままだなってわかるんだ。子供の頃は大人びていると思うことが多かったが、そこから成長なしで、プラスマイナスゼロの、俺が好きなまんまのユーリ。ただ、見た目なのかなんなのか――今は、俺、お前に対する好きが恋に変わってる。愛してる。抱きたい。嫌か?」 「……嫌じゃないよ。僕も好きだ……」  なんとか言葉をひねり出してそう告げると、噛み付くようにキスをされた。  深々と唇を貪られる。初めての体験だった。この世界以前にも、こんな体験はない。  しばらくの間、何度も舌を追い立てられていた。絡め取られては、甘く噛まれた。  僕が息継ぎを覚えた頃には、気づけばラスカが、僕の首元のリボンを解いていた。パーティ用の服が脱がされていき、ボタンも外されていた。 「っ」  鎖骨を指で撫でられて、同時に耳の真下に口づけされた。  軽く吸われ、そこから静かに舐められて、舌が鎖骨に到着した時、今度はそこを吸われた。ツキリとした痛みが広がり、見ればキスマークがついていた。なんだか恥ずかしい。  ラスカの両手が僕の胸に降りて、それぞれの手でそれぞれの乳首をつまんだ。  優しく撫でられて、僕は奇妙な感覚でいっぱいになった。  緊張と、見知らぬ感触、この二つに責められていて、頭の中が真っ白だ。 「あ、あの、僕もなにかする?」 「して欲しいことは山ほどある。ただ――今夜は、気持ち良くなってくれたらそれが一番嬉しい」  そう答えたあと、ラスカが意地悪く笑った。僕が頷いた瞬間、片手で左の太ももを持ち上げられた。そしてラスカが、僕の陰茎を口に含んだ。 「あ」  初めてのことだから、僕はさらに緊張した。  だが――それは一瞬で消えた。気づいた時には、僕は泣き出していた。 「う、うあ……あ、あ……ンん」  声が漏れてしまう。ねっとりと舐められて、口で扱かれて、気持ちよくて涙が出てきたのだ。そうしながら、指では丹念に後ろの中を指で解されている。香油のぬるぬるとした感触と水音が、僕の羞恥をさらに煽った。  長い時間をかけてゆっくりとゆっくりと体を高められていき、ほぐされた。  どのくらいそうしていたのかはわからないが、その間、一度も前からも出していなくて、僕の体は震え始めていた。汗ばんだ髪がほほに張り付く。出したい。果てたい。僕は先程から、そればかり考えていた。 「ユーリ」 「うん……っ……」 「お前と一つになりたい」 「うん、うんっ……ぁ……」 「挿れるぞ」 「うん、ぁ、ア、あ――!!!!」  そして、ゆっくりと挿入された。全部入りきった時、一度揺さぶられて、僕の体からは力が完全に抜けてしまった。慌ててラスカの首に腕を回して捕まった。 「泣き顔が可愛いっていう新発見をしてしまった」 「ぅ、ぁ……っ」 「泣かせたい」 「ぁ、ぁ……ね、ねぇ、それより、あ、あ」 「出したいか?」 「うん、うん」 「――ああ。俺も、お前が気持ち良くなってるところが見たい」  そうしてラスカが動き始めた。はじめは僕の体を気遣うように優しくだった。もどかしくて、思わず僕は彼の方に爪を立ててしまった。すると焦ったような吐息が聞こえ、動きが激しくなった。 「うあああああああっ!! あ!!」  そして尋常でなく感じる場所を突き上げられた時、僕は放った。  内部にも、熱い飛沫を感じた。  そのまま僕は眠ってしまった。  深夜、目を覚ますと、僕はラスカの腕の中にいた。 「起こしたか?」 「ううん。自分で起きたんだよ」 「そうか。良かった――今度は俺が指輪を渡したいと思っていたんだ」 「倉庫をまた作ってきてくれたの?」 「馬鹿。ムードを壊すな」  苦笑したラスカに、指でおデコをはじかれた。僕、それなりに本気だったのだが、それは黙っていることにした。眺めていると、小箱を取り出して、中からラスカが指輪を手にした。豪奢な金細工で、巨大なラピスラズリがはまっていた。ラスカの瞳の色によく似ている。ラスカは、僕の左手を取ると、倉庫が入っている指輪を外して、代わりにそれをはめた。そして律儀にチェーンをつけて、倉庫の方の指輪は、首から下げてくれた。 「この指輪は、魔王が永遠を添い遂げたいと思った伴侶に渡す指輪なんだ」 「……」 「これからは、そばにいよう。もう俺は離れない」  照れくさくて言葉が出てこなくて、僕は頷くことしかできなかった。  ムードは大切かもしれないが、心臓には悪い。  この日は腕枕をされて、そのまま一緒に眠った。  そして、翌日には。  帰るというラスカと一緒に、そのまま僕も旅立つことになった。  そんなこんなで。  こうして八年後。僕は二十七歳になった。逃亡者には、なっていない。  ある意味唆されてはしまったが、幸せである。  魔王城に専用生産室を設けてもらい、現在全生産300レベルになった。  生産の先輩であるギルさんと、相談しながら生産したりもしている。  それもなかなか楽しいが、あんまり相談に熱中していると、ラスカの機嫌が悪くなる。だが、初めて嫉妬されるという体験をしているので、ちょっと嬉しい。  なお、ラスカからもらった指輪は配偶者を不老不死にする指輪だそうで、僕の見た目は十九歳のままだ。  他には、なんと鍛冶のレシピには、【聖槍エンジェリカ】という、ゲームのタイトルになっていた伝説の槍まで登場してしまった。作ってみたが、中に伝説の勇者の人格が宿っていたりはしない。  伝説の勇者(予定だった)ウィズも元気に生きている。  人間と魔王は和解した状態で、現在も関係は良好だし。  そしてここはもう、ゲームではなく、僕にとっての現実となった!  これから先のシナリオは何一つ知らないわけだが、もうだいぶ前から知っているものとは違うし、僕は、幸せな道を歩んでいきたいなと思った。生産道を邁進しながら!  一応、ここまでを振り返るならば、めでたしめでたしだと僕は思った。

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