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第1話

兄が死んだ。 原因は、隣のムラとの諍いだった。 俺は、兄が死ぬなどと信じられない思いで、兄の死んだ体を見ていた。 俺たちのムラは、隣のムラに勝った。しかし、兄は帰ってこない。 兄の体に、玉でできた勾玉を飾って、漆を塗った鎧も、立派なのを着せてやる。 あの世へ旅立つ兄は、俺に笑いかけたあの表情も、柿の実を投げて寄越したあの頼り甲斐のある背中も、静かに黙っていた。 兄はもういないのか、いるのか、わからなかった。母君は、いる、と言った。信じれば、己の中に兄はいるのだと。 金色に飾らせた鎧の中で、兄は静かにしていた。首に掛けた勾玉が藍のような翠のような色に光る。夜半の守りを務めながら、自分の中に兄が降りてくるのを待った。しかし、兄は全く現前しない。 いよいよ、兄を埋めることになった。 兄は、数人の奴婢に付き従われて埋まっていった。静かに黄金が煌めき、呪術師たちが次の世界で安らえるよう、武功猛々しいように、祝詞を挙げる。 涙は、誰も流してはいなかった。全ては、華華しい来世への道わかれだと思われた。 だが、俺は悲しかった。泣きたいと思った。 兄はもういない。いないのだ。 俺が歳を取っても、思い出の中の兄は若いままだ。そんな残酷な事実があろうか。 兄の鼻筋はあくまですらりと高く、目は切長にパチリとした二重が描かれていて、死んでいるとはまともに思えなかった。唇は青褪めていたが、形よく膨らんで、兄は、今にも目覚めそうだった。その顔を見ながら、俺はその頬にもう一度だけ触れたいと思った。

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