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1.居酒屋の件

「ね、僕のことずっと見てたでしょ」 ミズキ先輩はそう言っておれの肩に両腕を回して、息がかかるほどの距離で熱っぽい視線を絡めてきた。バイトの新人歓迎会で、一次会でも二次会でもたらふく酒を煽っていた先輩の息は酒臭かった。おれは原付で来てたのを口実にお酒を飲んでいなかったから、そのにおいにちょっとうっときてしまう。 「え、えっと………」 「カイセーは彼女とかいないんだっけ」 「いないです…」 「んふふ。そーなんだ。顔かっこいいのにもったいないなぁ」 その辺のおんななんかより、あなたのほうがずっと魅力的です。そう思うけど、すんなり胸の内を吐露できるような性格じゃないから、っていうか人見知りのほうが強いから、こんなに至近距離でじっとり見つめられてもドギマギしてモゴモゴしちゃうだけ。 「あ、あの……」 「んー?」 「かお近いです……」 「んふふ」 さっきから含み笑いしてるけどなにが楽しいんだろう。おれのことからかってるのかな、って思いながら、すきなひとの急な大接近で心臓は早鐘みたいにガンガン鳴ってるし、股間はむちゃくちゃ固くなってる。はやく離れてくれないともっと大変なことになってしまう…!というところで、むにゅ、とミズキ先輩が身体を押し付けてきて。身体は密着してて、逆にくっついてないのは顔だけ、なんて状況になってヤバすぎておれは焦って発汗しまくる。 「ねえ、」 「はい……」 …イーコトする? バイトの新入生歓迎会の居酒屋。トイレの個室におとこふたり。気になってる先輩と。 そんな状況下で、NOと言える奴なんていないだろ。

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