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第九話 偽子宮(※微 残酷描写あり)

 空き缶を抱えてルトは急いで走った。先ほど声をかけてきた獣人は、ルトに興味がなさげだったから安堵したが、他の獣人は見逃してくれない。見晴らしの良い空の下で犯されれば、行き交う獣人が次々に加わって輪姦されてしまう。  息を切らしながらどうにか宮内に入る。大浴場に進み、服に染みついた缶詰の匂いを落とし、汚れた空き缶もきれいに洗う。軽く湯をかぶったら、ルトの足環が振動した。  獣人を待たせないよう手早く水気を拭き、棚に置かれた新しい服に身を包む。十分もたたず大浴場を出て、今度は大広間に走った。  滲んだ汗をぬぐって大広間をくぐり、絡みつく獣人と少年たちを見渡す。合間で佇む、漆黒の狼を見つけた。またか、とルトは細い息を吐きだした。  ここ数日、ルトは以前にも増して、ラシャドに呼び出されている。それこそ昼夜問わずだ。そのうえ一回の性交が長く、終わったと思えばまた始まる。際限がなかった。何度も、何時間も、ラシャドだけを受け入れさせられている気さえした。  大広間に入ったときから、ルトの行動は常に見られていたらしい。迷いなく進めばラシャドの口元が静かに上がった。ただでさえ重い足がさらに重たくなった気がする。足を引きずり、威圧を放つ獣人の前でどうにか立ち止まった。  きつい視線はルトだけに注がれる。汗をぬぐうこともできず、どろりと沈む心を隠すようにうつむいて命令が下されるときを待った。拒否権のない、身体だけでなく心も引き裂かれる命令を。 「行くぞ」  もはや無意味な抵抗などしようとも思えなかった。しがみつくように、薄布一枚を握り締める。ルトは俯かせた顔をさらに沈ませた。薄い唇をきゅっと噛みしめて。  涙の膜で潤む視界に、ラシャドの厚い胸板が見え隠れする。シャツのボタンを途中まで外し、ズボンの前を寛げた格好で伸し掛かられた。  ひとり裸体をくねらせて、シーツを乱したルトは、細い首筋をのけ反らせる。与えられる刺激に滑らかな肌が跳ね上がった。浮き出た胸を、硬い手のひらがまさぐっていく。 「ぁっん、ッ、んぅ――っ」  一度だって鍛えた経験のないルトの胸は薄っぺらでぺたんこだ。贅肉はないし、どちらかというとやせっぽっちだ。それでも何かしらの楽しみを見いだせるのか、ラシャドは決まってルトの白い胸を弄った。

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