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「ルトは? ルトは、ヌプンタに戻ったらどうするのー?」  夜風のなか、輝く瞳が一斉にルトへ集中する。薄い唇をきゅっと噛んで、ルトはみんなの視線をかわした。  いくつもの目が、わくわくとルトの返事を期待する。でもみんなが納得する返答を、ルトは持たない。きっと期待外れだ。みんなの思いを裏切ってしまったらと怖気づきそう。自分に恥じない選択をしたけれど、どんな反応を返されるのか不安になる。  一度だけ、深呼吸をして、ルトはゆっくり顔を上げた。 「俺は明日……みんなと一緒に、ヌプンタには帰らないんだ。その……ずっと黙ってて、ごめん」  ルトが言い終えるのとほぼ同時。興味深くルトを見つめる、みんなの嬉しそうな顔が固まった。深い夜空にしんと静まる空気が漂う。急速に、のどかな世界が色を変えた。顔つきを尖らせて、ユージンがいち早くルトに身を乗り出してきた。 「は? ここに残るってことか? 何だそれ。どういうことだよ」 「まさか、俺たちのせいか? ずいぶん前だ。あっただろ、孕み腹の妃がどうとかで、そこらの獣人が来れなくなったってお触れ……あれはルトのことだった? 皇帝が、単に、他の獣人どもをごまかしたんじゃなくて、本当のことだったのか?」 「いつも、ルトだけ、皇帝に呼ばれてからなの……? ルト、ここに残るの? そんなの、おかしいよ」 「そうだよ。その冗談は、さすがに僕でも笑えないよ。ちゃんと帰るんだよねぇ、ルト、僕たちと一緒に……?」  怒りと不安と、悔しさと、受け入れがたさ。様々な思いを隠せない友人たちに、重い緊張をふっと吐き出す。ルトは張り詰めた頬を緩めた。 「誰のせいでもないよ。ここから……、本当は、みんなと一緒に逃がしてくれるって言われたんだ。俺が望めば、一生幸せにしてくれるって、言ってくれた。俺が、自分で決めたんだ」  迷って、悩んで、悔いて。それでも胸を張って前を向く。グレンがルトに誓ってくれた。いつか人間が対等になれる国を作ると。そんな世の中へ変えてみせると。  今も、こうして過ごす間も、グレンたちは日々戦ってくれるのだろう。だからルトも希望を追える。大好きなグレンたちの傍で。そんな願いもこめたルト自身の決断だ。  静かな夜が訪れた。誰も言葉を発せなかった。ただパーシーが、鼻水をしゃくりあげる音が、大きく響く。みんな無言で泣いていた。  ぽたぽたと、水滴が落ちる手の甲に、ルトはそっと手のひらを重ねる。微かに震えた握りこぶしを、優しく包み、癒しをこめた。パーシーが不思議そうな顔をして涙を引っこめた。 「わ……?」  ラザやユージン、エミルにも。ひとりずつ手を握り、ルトの力を分け与える。強張った表情を緩め、ラザがほっと息をついた。

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