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【四】最初の週末
そのまま、ソファの上で暫く愛撫され、頭がぼんやりとなり、顔が涙でドロドロになってしまった僕は、嗚咽をこらえていた。ずっと恢斗が、僕を焦らしているからだ。
「お願い、もうやだぁ、ぁ……ァ、ァ、ァ……あああッ」
現在正面から僕を押し倒し、僕の右胸の突起を吸いながら、恢斗は指で内部をかき混ぜ続けている。もう僕の下腹部もぐちゃぐちゃだ。何も考えられなくなりつつある僕は、力が入らなくなってしまった指先を、必死に恢斗へと伸ばす。
「ぁ……っ、ッ、ん……う、うあ……」
Ωの体は、元々快楽には弱いとされている。だから多少強引にされても、受け入れる事は可能だ。だが、逆にこんな風に丁寧にされ、焦らされ続けると、快楽で全てが埋め尽くされたようになってしまい、全身が熱くて辛い。気持ち良すぎて、頭がおかしくなってしまいそうになる。
「恢斗、ぁ、なんでこんな、いつもみたいに――っ、う、ぅあァ」
「まだ『いつも』が始まって、数日だぞ?」
「う、ぅ……ンん」
「もっともっと俺様無しじゃダメにしてやる。お前の『いつも』と『全部』を俺で染める。あと三年、それを我慢しなけりゃならないと思ってたら――まさか、来てくれるとはな」
何を言われているのか、もう上手く理解出来ない。ただ、恢斗の瞳が獰猛に変わっているのだけは、すぐに理解した。僕は潤んだ瞳で、それを見ていた。
「どうされたい?」
「あ、あ、出したい、っ」
「どうやって?」
「挿れて、早く……っ、ぁ」
「誰のを挿れて欲しいんだ?」
「恢斗……恢斗……」
僕はここ数日で叩き込まれたお願いの仕方を無意識になぞっていた。何度も言わされた言葉だ。恢斗はしつこいほどに、僕に言わせる。自分の名前を呼ばせ、恢斗の事が欲しいと口に出させる。言わなくても分かって欲しいというか、分かるだろうと何度か理性が戻った時僕は考えたけれど、もうグズグズになっている僕の体は、素直に恢斗が望む言葉を放つ事を選んでいる。僕の心も――恢斗を拒絶したいとは思っていない。
想像もしていなかった濃密な交わりが、連日訪れる内、僕のしぼんでいた恋心が、強制的に再度膨らませていく感覚だ。ただちょっと、恢斗は激しすぎる。
この日、恢斗が僕に挿入したのは、二時間が経過してからの事だった。
その後は――時に僕は理性を取り戻したが、土曜日の夜までずっと繋がっていた。食事も取らず、ただ時々ペットボトルの水を貰って飲む以外、そもそも何かを口にする気力もあまり無かったが、僕は抱き潰された。完全に意識を飛ばした僕が、本格的に目を覚ました時には、日曜日の朝が訪れていた。
もう喉が枯れてしまって、声が上手く出ない。いつの間に寝室へと移動したのかも思い出せないし、漠然とシャワーを二人で浴びて、その最中にも貫かれた記憶が過ぎったが、定かではない。ただ、体は綺麗になっていた。恢斗が処理をしてくれたらしい。
αの体力は尋常ではないとは聞いていたが、予想以上過ぎた。中二の頃の夏休みの一度きりの交わりの時は、恢斗は手加減してくれたのだろう――一初回は考えてみれば、この週末とあまり変わらなかった気もする。
「起きたか、紫樹」
「……おはよう」
すっかり僕は、敬語以外の口調を覚えていた。配偶者となった後の事を考えると、敬語の方が公の場では良いような気もしたのだが、恢斗に教え込まされてしまったのだ。僕を抱きしめている恢斗は、僕の頬に口付けると、嬉しそうな笑顔になった。
「ずっと、こうしてお前と一緒に寝て起きるのが夢だったんだ」
恢斗は、僕に死ぬほど甘い。愛情を注がれすぎて、僕はいちいち照れてしまう。こんな展開は予想外過ぎた。
「恢斗……」
「なんだ?」
「本当に僕が好き?」
「まだ伝わらないのか?」
「――本当に好きなら、こんな風に抱かれたから、僕は恢斗とは体力が違うから辛くて授業もまともに受けられなくなるし、もっと抑えてもらえない?」
僕は照れ隠しもあったが、率直に本音を述べた。これは実際、かなり大きな問題でもある。すると恢斗が僕をより強く抱き寄せた。僕は額を恢斗の胸板に押し付ける。
「紫樹の望みはなんでも叶えてやりたい。ただ――俺様はずっと我慢していて、まだまだ足りない、紫樹不足だ。もっと欲しい」
「……」
「紫樹。俺に抱かれるのは嫌か?」
「……そうじゃないけど……こんな風にされたら、本当に授業に出られない。お願いだから、恢斗。優しくして?」
「優しく、か――……分かった。仕方がないから、平日は少し抑える。俺様は紫樹の事が好きすぎるから、ドロドロに甘やかしたい。可能な限り優しくする」
本当だろうか。
信じていいのだろうか。
僕は尋ねたかったが、放たれた言葉が甘すぎて、聞いているだけで赤面してしまったから、顔を上げる事が出来なかった。
その後、僕達は寝台から降りた。そしてそれぞれシャワーを浴びた。やはり体は綺麗になっていたのだが、気分的に浴びたかったのだ。僕は体を流し、同時に一人の時間を得た。浴室の鏡を見たら、僕の全身にキスマークが散らばっていた。もう絆創膏で隠すなど不可能な数である。
「恢斗が僕の事をこんなに好きなんて、思ってなかった……」
頭から温水をかぶりながら、僕はポツリと呟いた。
入浴を終えると、先に出ていた恢斗が、ルームサービスを注文してくれていた。なお、寮の部屋にはダイニングキッチンも存在する。僕は過去の人生で料理をした事はないが、パンフレットには自炊も可能だと書いてあったから、いつか挑戦してみたいとは思っている。
「食べるか」
「有難う、頼んでおいてくれて」
届いていた朝食のプレートを見て、僕は椅子に座りながら述べた。
冷たい水が置いてあった。こうして日曜日、僕達はゆっくりと朝食をとった。
「来週からは、新入生歓迎会の準備もあるし、体育祭や文化祭の実行委員会との最初のやりとりもある。生徒会の雑務があるから、放課後は別々に帰る事になるが――大人しく部屋で待っていろ」
「僕も風紀委員会の見回りが本格的に始まるみたいだから、日によって帰る時間がまちまちになると思う。僕の方が遅い時は、遠慮なくご飯とか、食べていてね」
敬語を使わないで喋るというのが、まだあまり慣れない。ただ、気を遣ってくれているのだろうと分かるから、僕は笑顔で返した。すると恢斗がすっと目を細めた。
「二階堂はいけ好かないが、信頼は出来ると思う。が――忘れるな、紫樹。自分が誰のものなのか。お前は俺様のものだ」
そんなやりとりをし、食事のひと時は流れていった。
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