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壊れる

 言葉にするのは簡単だ。  だけど、それを受け入れてはもらえない。 「俺は答えられない。出会ってしまったから」 「出会う前ならよかったのか?」 「ああ。でも、お前は俺の運命じゃない。お前のバースは俺を拒絶している。運命じゃないって、お前が一番分かっているだろう」  分かっている。分かっている。  運命の番に引かれ合うことぐらい。逆らうことなんてできない。  出会ってしまえば、引き裂くことは困難だ。  僕が桐生の運命の番じゃないことは身体が一番わかっている。  だけど、だけど心がそれを拒む。理解はしても想いを止めることはできない。  簡単に諦めることはできない。 「時間を、時間をください」  なり続けるスマホの通話ボタンを押した。  相手は桐生の父親だった。  父親にすぐに本宅に桐生と共に来るように言われた。  桐生は渋々寝ている相手を起こさないように、メモを残して部屋を出た。 「僕はここに残ります」  こんな気持ちの整理もできないまま人に会いたくない。  今は、人に会いたくないし、桐生とも一緒にいたくない。 「分かった」  桐生は静かに頷くと1人で出ていった。スマホで今日の予定を桐生に送って部下に今日は休暇を取ることを伝えて桐生の予定を送った。  ホテルの自分にあてがわれた部屋に戻る。すっかり冷えた部屋。暖房をつけ直す。  あのΩが誰なのか確認しそびれてしまった。相手が男か女かさえも。  あんな香りはこれまで嗅いだことがない。  桐生が僕を番にした時だってあんな香りはしなかった。  むせかりそうなほどの甘い香り。  あれが運命の番の香り。  僕じゃなかった。桐生の相手は僕じゃなかった。  ベッドに服のまま倒れ込んだ。  運命を突きつけられて、それでもと願うことはできない。  僕には手に入れられなかった。運命には勝つことができなかった。  運命に出会わなくても幸せなΩとαもいる。出会わない者もいる。  だけど、出会ってしまったらもう運命は変えることができない。  引きつけあって、引かれ合う運命。  どうして僕は選ばれなかったんだ……。

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