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訪れる

「しっかり頼みますよ」  僕が声をかけると、「はい」と返事をして桐生を連れて行った。  僕はため息をついて、「お人好しなんですよ」と呟いてタブレットの電源を入れた。  桐生の親会社に連絡を入れて昨日の出席者のリストを手に入れた。  『ユキ』という名前だけではとても探し出せなかった。似たような名前はあっても歳が違っていたり、βだったり。Ωということを隠しているのかもしれないと、名前を探す。  近い名前をバース性関係なくリストアップして、本社勤務者は社員証の写真を合わせた。子会社は孫会社までは分からないが、出席者リストの名前が似ている者はリストアップした。  写真さえあれば桐生に確認は取れるが、ない者は分からない。せめて年齢だけでもわかればと本社に問い合わせてデータを送った。  桐生の個人的なことではあったけど、会社で使うと言い添えて。内密にと。  日本にいられるのは明後日までだ。  運命の番なら出会えるはずだ。  桐生は相手に何も話さなかったのだろうか?  一夜の浮気のつもりだったんだろうか。  だけど確かに運命の番いだと言った。  何か約束的なことはしなかったんだろうか。  ため息をついて椅子の背に背中を預けて天を仰いだ。  『甘やかしすぎ』『構いすぎ』『自分でさせろ』桐生の側で世話を焼きすぎたのかもしれない。  言われ続けていたけど、それが性分なのだから仕方がない。高校生からずっと桐生の世話を焼いてきた。側にいることに必死で。  立ち上がって桐生の使っている部屋に向かった。何か手がかりがないか。  桐生の部屋は今朝と同じ状態だ。  『よく寝ていたから起こさなかった』という桐生の手書きのメモ。  寝室は既に掃除がされていて綺麗に片付けられていた。念のためバスルームも確認するが何もなかった。  部屋の電話からフロントに掃除担当に落とし物などなかったか確認したが、何もなかった。  ただ、フロントに部屋の借り主の名前を聞いた人物がいたことだけは確認できた。  フロントは、プライベートな内容の為答えなかったとも言っていた。  若いスーツを着た男性だったというのは分かった。  何も手がかりがない。  確かに僕も感じた甘い香り。咽せ返るほどの香り。  運命の番だと確信できた。  だけど、どうして何も言わずに出て行ってしまったのか。  桐生は運命だと言っていたけど、相手は、相手は運命の番だと分からなかったんだろうか。  初めての相手だったとか?  初めてなら比べる相手がいないから分からなかもしれない。  他のαとの接触がなければ比べることもできない。  初めてが桐生なら他のαよりも十分魅力的でいい香りだ。  初めてのαとの接触が桐生なら分からないかもしれないけど……。  運命の番なら……。 「桐生のばか」

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