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引かれ合う運命

 桐生の番は見つからない。  アメリカを拠点に仕事をしている桐生が日本にいるだろう番に出会うことは皆無だ。  日本に帰ることも少なく、日本に行った時には子会社、孫会社に視察として回ってみても番は見つかることはなかった。  どうして出会うことができないのかと桐生は落ち込んでいた。  衰弱しているように見えることもある。  運命の番が無理矢理に引き裂かれれば精神を病んでしまい、最悪死ぬとも噂に聞く。噂だし、化学的根拠もないからなんとも言えない。  僕は桐生の発情に吐き気や頭痛はしなくなっていた。これは番として安定してきたからだろうと医者には言われた。  安定して、この絆が長く続けば番を解消された時の衝撃は強いかもしれない。  このまま見つからなければいいのに。  子会社や孫会社の視察を繰り返す桐生に、桐生の父親は仕事熱心になったのかと期待した。任される仕事量も増えた。これまでホテル業界の出資や運営に携わってきた桐生だが、外資にもその仕事範囲を広げ、本社の主体事業にも影響を及ぼすほどになった。  前よりも本社のある日本に帰国する頻度は増えていった。  忙しい中で、社内で番を探す。グループ会社まで合わせるとその人数は膨大だ。  僕は相変わらず秘書の仕事をこなしている。桐生は以前よりも積極的に社内のパーティーや会食に参加するようになった。それは、僕にαとの出会いを増やす為もあった。  僕は運命の番に出会っていない。  桐生以外のαの香りには反応しない。  番は番のフェロモンにしか反応しない。それは常識だ。  だから、αがいても気がつかないほどだ。  運命の番なら、番がいても関係ない。出会えばすぐにわかる。番がいても惹かれ合う。  だから桐生はαとの出会いを増やしてくれているが、僕は全く運命を感じる相手には出会わなかった。  また日本に向かう。  忙しいスケジュールの合間に視察を入れている。桐生はずっと探している。  一度出会ってしまったからなのか、諦めることも弱気になることもない。  僕は、こんなに必死に桐生を追いかけただろうか。  長い間側にいて、側にいる努力はした。桐生に見合う相手になれるように。  あれから2年。桐生が日本に帰ったのは2週間にも満たない。  本当に運命の番は引き合うのだろうか?  本当に出会うことはできるのだろうか?  私が、運命の番に出会えないように桐生も出会えないかもしれない。  桐生は本当に努力した。それは側にいる僕が一番知っているし、見てきた。  これほどの思いを目の当たりにしていれば、僕は快く運命の番に潔く身を引ける。  桐生への想いもこの2年間で変化してきた。  桐生への想いが薄らいだわけではないけど、気持ちの整理はできた。桐生に運命の番が現れたり、僕に運命の番が現れた時には素直に受け止めることができるだろう。

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