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はじまる恋

* あの日、俺は辞めようとする阿川を引き留めた。 どうしてアイツを引き留めたのかもわからない。 そしてそれが「愛」か「恋」かも今だにハッキリとしていない自分がいた。 今まで嫌いだった相手にいきなり好きだと言われて、それを素直に受けとめる事は難しいことだ。それに相手は同じ同性だ。今まで自分はずっと、ノンケだったからそのハードルを飛び越えるには俺には高すぎる。それに勇気がいる事だ。なのにアイツは、そんな俺が好きだと言う。 好きだと告白されても困る。なのに俺はアイツの手を離そうとはしなかった。いや、何故か離せなかった。 あの手を離したら、もう二度とアイツと会えないような気がしたんだ……。 だから俺は、アイツの手を離さなかった。自分の気持ちの整理も出来ないままアイツをあの時引き留めた。 本当は手を離してしまえば楽なのに、俺はアイツと向き合うことを選んだ。それが困難な道のりでも、俺はアイツから逃げないと決めたんだ。 確かに俺はアイツに酷いことされた。今でもたまに思い出すと腹が立つ。だけどそんな奴だけど、根は良い奴だと俺は知っている。だからアイツを許す。許さないと二人前には進めないと思った。  許す事で自分のこの思いが救われるなら、俺はアイツを許して自分を許す。そしてそこからこの気持ちが何なのかを知りたいと俺は思った。 が……! 「――葛城さん?」 「あっ、阿川っ……お前……!」 「はい?何ですか?」 「ッ……!」 『お前いい加減にしろーーっ!!』 その瞬間、葛城は昼間の食堂で大きな声を出した。その大きな声に周りは一斉に静まり返った。いきなり大声で怒鳴られると、阿川は直ぐに言い返した。 「も~、ダメですよ葛城さん。みんながいる食堂でそんな大声出しちゃ。あっ、でもでもベッドの上なら大声出しても大丈夫ですよ〜?」 『ブハッ!!』 「うちは防音なので、いくら声を出しても近所には聞こえませんから安心して下さいーー!」 『ゲフォゲフォ……!』 「大丈夫ですか~~?」 葛城は食べていたラーメンの麺を口から吹き出すとテーブルの前で苦しそうに噎せた。阿川は椅子から立ち上がると、彼の背中を後ろから優しく手で擦ってあげた。 「俺、変なこと言いましたか?」 「阿川お前ふざけるな…! 人が飯を食ってる時にいきなり変なことを言うなっ…!」 葛城はそう言って噎せながら怒鳴った。だけど、その顔は少し赤かった。阿川は一瞬ニヤリと笑うとそこで意地悪を言った。

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