2 / 126
はじまる恋
*
あの日、俺は辞めようとする阿川を引き留めた。
どうしてアイツを引き留めたのかもわからない。
そしてそれが「愛」か「恋」かも今だにハッキリとしていない自分がいた。
今まで嫌いだった相手にいきなり好きだと言われて、それを素直に受けとめる事は難しいことだ。それに相手は同じ同性だ。今まで自分はずっと、ノンケだったからそのハードルを飛び越えるには俺には高すぎる。それに勇気がいる事だ。なのにアイツは、そんな俺が好きだと言う。
好きだと告白されても困る。なのに俺はアイツの手を離そうとはしなかった。いや、何故か離せなかった。
あの手を離したら、もう二度とアイツと会えないような気がしたんだ……。
だから俺は、アイツの手を離さなかった。自分の気持ちの整理も出来ないままアイツをあの時引き留めた。
本当は手を離してしまえば楽なのに、俺はアイツと向き合うことを選んだ。それが困難な道のりでも、俺はアイツから逃げないと決めたんだ。
確かに俺はアイツに酷いことされた。今でもたまに思い出すと腹が立つ。だけどそんな奴だけど、根は良い奴だと俺は知っている。だからアイツを許す。許さないと二人前には進めないと思った。
許す事で自分のこの思いが救われるなら、俺はアイツを許して自分を許す。そしてそこからこの気持ちが何なのかを知りたいと俺は思った。
が……!
「――葛城さん?」
「あっ、阿川っ……お前……!」
「はい?何ですか?」
「ッ……!」
『お前いい加減にしろーーっ!!』
その瞬間、葛城は昼間の食堂で大きな声を出した。その大きな声に周りは一斉に静まり返った。いきなり大声で怒鳴られると、阿川は直ぐに言い返した。
「も~、ダメですよ葛城さん。みんながいる食堂でそんな大声出しちゃ。あっ、でもでもベッドの上なら大声出しても大丈夫ですよ〜?」
『ブハッ!!』
「うちは防音なので、いくら声を出しても近所には聞こえませんから安心して下さいーー!」
『ゲフォゲフォ……!』
「大丈夫ですか~~?」
葛城は食べていたラーメンの麺を口から吹き出すとテーブルの前で苦しそうに噎せた。阿川は椅子から立ち上がると、彼の背中を後ろから優しく手で擦ってあげた。
「俺、変なこと言いましたか?」
「阿川お前ふざけるな…! 人が飯を食ってる時にいきなり変なことを言うなっ…!」
葛城はそう言って噎せながら怒鳴った。だけど、その顔は少し赤かった。阿川は一瞬ニヤリと笑うとそこで意地悪を言った。
ともだちにシェアしよう!