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急接近。

「阿川……!? お前、先に帰ったんじゃなかったのか?」 「ええ、仕事が終わったので定時に切り上げて帰りましたよ。けど、葛城さんと一緒に帰りたくて外で待ってました」 「なっ、お前…――!?」  葛城はその言葉に驚くと思わず自分の腕時計を確認した。時計の針は9時半を指していた。自分の帰りを待っていた彼に戸惑いの表情を見せた。 「3時間半もよく外で待ってられたな。俺なんて、待たないで早く帰ればいいのに…――!」 そう言って素っ気ない態度で話すと、葛城は少しブツブツと文句を言って前を歩いた。そのあとを黙ってついてきた。 「あの、怒ってますか…――?」 「怒ってるように見えるか? ただ呆れてるだけだ。まったくお前の考えてる事がよくわからん。俺だったら直ぐに帰るがな」 「俺はただ葛城さんと一緒に帰りたくて…。その、迷惑でしたか?」  阿川は彼の隣で歩くと、そう言って顔を覗き込んできた。葛城は一瞬、ビクッとなると顔を反らした。 「――俺が迷惑だって言っても、お前は一緒に帰りたがるんだろ?」 「葛城さん……?」 「ったく…しょうがないから一緒に帰ってやるよ」  葛城は呆れた表情でそう言うと歩みを縮めた。阿川はその言葉に喜ぶと、仔犬のようにまとわりついた。 「わぁ~!待ってた甲斐があったな、きっとそう言ってくれるんじゃないかと思ってました!」 「……ったく、大袈裟なヤツ!」

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