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愛でしかない 02

 翌日の土曜は、糸井が大阪に来ることになっていた。  本当は先週の予定だったのだが、日曜の夜から福井へ移動しなければならない仕事が入り、慌ただしいからと一週繰り延べになったのだ。  三週間ぶりに糸井に会える。  これまでにも仕事の繁忙期にはそれくらい会えなかった時はあったのだが、やはり物理的に離れている分、久しぶりに会えることへの喜びが大きい。  昨日の歓迎会は、主役なのに一次会できっちり切り上げて帰ってきた。あまり量も飲まなかったので、二日酔いはない。体調は万全。今朝は八時にすっきり目覚めた。  糸井は九時十五分に新大阪駅到着ののぞみに乗ると言っていたから、九時に家を出れば迎えは間に合う。東京との行き来を考えて、新大阪駅近くに部屋を借りたのは正解だった。大阪支社までの通勤の便も良い上に、大阪に来る糸井をすぐに迎えに行けるし、帰りもギリギリまで一緒にいられる。  片付けも掃除もしっかり終えた部屋を、結局九時を待てずにそわそわと出発した。  徒歩で十五分弱の新大阪駅で、三階の中央口付近へ向かう。ホームまでは来るな、改札の外で待てと強く言われたので、入場券は買わない。言いつけは守らないと、糸井が余計な気を遣ってしまう。  土産物売り場の傍で待っていると、到着したのぞみから降りてきた大量の人波の中に、糸井の姿が見えた。似たような背格好の男性はたくさんいるのに、なぜだか一直線に彼だけを見つけられてしまうのだから、不思議なものだ。  大声で呼ぶのは憚られるから、目印に片手を挙げようとしたら、その前に糸井がこちらに気づいて破顔した。向こうも同じように、大勢の中から糸川を見つけられる特殊能力を身に着けているのかもしれないと思うと、これって愛でしかないよなと嬉しくなってしまう。 「糸川さん!」  人の流れから外れて、糸井がこちらに駆け寄ってくる。かわいくて愛しくて、思いっきりハグして撫で回したいのを全力で我慢した。 「移動お疲れ様。早起き大変だったでしょ」 「ふふ、ほとんど寝てたんで大丈夫ですよ。二時間半ってあっという間ですね」  バックパックひとつという軽装の糸井を横に、今来た道を歩き出す。糸井は携帯のマップと見比べながら、糸川の新居までの道を覚えようとしているようだ。  覚えなくてもいいよ、と内心で思う。毎回必ず駅までは送り迎えするつもりだから。 「荷物少ないね。ずいぶん身軽そう」  荷物持ちもするつもりだった糸川が少々意外そうに言うと、糸井はいたずらっぽく笑う。 「一泊だし、糸川さんに東京土産買ってくのもどうかと思ったから、もうほとんど手ぶらで来ちゃいました。部屋着とか全部借りる気満々なんで、貸してくださいね」  そんな遠慮のなさが、糸川にはとても嬉しい。 「もちろん。糸井くんのお泊まりセットも準備してるからね」 「さっすがー。ありがとうございます」  駅で会ってから、糸井の笑顔が絶えない。自分の表情も同じようにゆるゆるに緩んでいるのだろうかと若干心配になるが、もう引き締めようもないのでこれは仕方がない。  早く部屋で二人きりになりたいなと考えながら歩いて、やがてマンションに到着した。二階なのでエレベーターを待たずに階段を上がり、角から二番目の部屋のドアを開ける。 「どうぞ」  そう言って糸井を先に中へ促し、自分も玄関に入って施錠した、その時だった。  ぐっと背後から肩を掴まれ、糸井の方を向かされたと思ったら、そのまま壁へ押しやられる。 「糸っ……」  呼び掛けようとした口が、糸井のくちびるに塞がれた。驚いた拍子に開いた口内へ舌が侵入し、不意打ちの口づけは一気に深くなる。  糸井からのこんな積極的なキスはこれまでにないことで、糸川の思考は半分停止していた。 「ん……っ、だめだ、全然……我慢できなかった……」  息継ぎをするように、自身も困惑したように眉を寄せて糸井が呟く。そのまま糸井は、玄関の三和土に膝をついた。 「っちょ、糸井くん!?」  糸川が放心している間に、糸井は糸川のズボンの前を手早く寛げ、下着から引き出した糸川の性器を迷いもなく口に含んだ。 「早く、いとかぁさ……っ」  糸井は巧みに舌を使い、性急に糸川を勃たせようとする。その様を上から見下ろしながら、糸川は体中の血が沸騰するかと思った。  毎週だって会いたいし抱きたいと思う愛しい相手と、三週間も遠く離れていて、その間ずっとその肌に触れたいと思ってきたのだ。こんなふうに触れられて、興奮しないわけがない。  糸井が急かすまでもなく糸川は瞬時に屹立し、糸井はとろけた表情でその先端に赤くぬめった舌を這わせた。 「早く、中にちょうだい」  さっきまでの無邪気で清廉な笑顔は一体誰のものだったのか、両手で愛しげに糸川の怒張を包み、それに頬を寄せて上目を使う糸井は、淫蕩な娼夫のようだ。 「……立って」  糸川は低く唸って、糸井の襟元を掴んで引っ張り立たせた。  こめかみが脈打つ。入れたい、と発情した獣のようにそれしか考えられなくなる。  靴を振り捨てるように脱いで、糸井を引きずって寝室のドアを開け、ベッドの上に糸井の体を突き飛ばすように投げる。乱暴な扱いを受けているのに、覆い被さった糸川の首に、糸井は恍惚とした瞳を潤わせて腕を巻き付けた。 「糸川さんっ……!」  噛みつくように首筋を吸って、糸井のズボンを下着ごと剥ぎ取る。その足を抱え、前戯もなく突っ込もうとして、 「待って!」  慌てた糸井の制止の声に、はっと糸川は我に返った。 「ご、ごめんっ」  体を起こし、組伏せられた糸井の乱れた姿を目の当たりにして、自分の速まりきった鼓動の音が耳に響く。  一体糸井に何をしようとしたのか。煽られたとはいえ、欲情のままに何の準備もなく糸井の体を傷つけるところだった。 「ほんとごめん、無茶したね僕。準備、ちゃんと……」  反省に頭が冷えて、糸川はサイドボードの中からゴムとローション、バスタオルを取り出す。そのバスタオルを糸井の腰の下に敷こうとしたところで、糸井は気恥ずかしげに首を緩く振った。 「そうじゃなくて……このままじゃ入らないから……」  敷かれたバスタオルの上で、糸井は大きく脚を広げ、その股の間に手を伸ばす。その指先が後孔を探り、黒いプラスチックの塊を抜き出した。  その正体に、糸川は目を瞠る。 (え……あ、アナルプラグ……?)  濡れ光ったプラグが抜き出された孔はすぐには閉じず、たらりと内側から仕込まれたローションが溢れ出た。 「これで……すぐ入る、よ」  はあ、と熱い息を吐いて、糸井は、股の間で糸川を握る。まだゴムを装着していないその先端を、後孔に押し当ててくる。 「いれて……」  懇願されて、抗う気など起きもせずに糸川は腰を進めた。  隔てるもののない、熱い糸井の内側。ぬめった内壁がいやらしく蠕動して、糸川を奥へ吸い込もうとしてくる。 「あ……ぁ、ん、う……」  せまくてきつくて、それでいて糸川にぴったりと沿うように形を変えていく糸井の胎内に、ゆっくりと糸川は沈んでいく。 「は……嘘でしょ」 「え……?」 「こんなのいつ仕込んだの」  じりじりと奥へ向かいながら糸川が問うと、糸井は横を向いて目元を手の甲に隠した。 「……洗浄は家でして、プラグは……京都の手前で、新幹線のトイレで入れた……」 「そこからずっと入れてたの?」 「だって、糸川さんと早くしたかったから……」 「ここに僕のを入れてほしかったんだ?」 「うん……ん、あぁっ」  いいところを擦られて、糸井が喘いで胴震いする。小さく腰を引き、もう一度その場所をそっと穿つと、ざあっと肌が粟立って全身に力が入る。 「ん……んん、ぅ……」  反らした喉はひくつき、息を詰めた糸井の瞼に涙が浮かんだ。 「息、して」  汗で額に張り付いた糸井の前髪を撫で上げると、一瞬薄目を開けた糸井が、ぎゅっとその目を閉じる。 「あ、いや……だめ、まだだめ……、っ……」  弱々しく訴えて、びくびくっと痙攣したかと思うと、腹の上で揺れていた糸井の先端からぴゅるっと白濁が吐出された。  まだほとんど動いていないのに、入れただけで達してしまったらしい。 「ごめ……なさい、俺だけ、一人で」  呼吸が整わないまま狼狽して謝る糸井の額に、くちびるに、糸川はそっと口づけて微笑む。 「いいよ。……でも、まだ足りてないでしょう?」 「え……」 「僕も頑張るから、糸井くんも頑張って」  優しく頭を撫でて笑いかけると、糸井は困ったような顔で、真っ赤になった。

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