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最後の恋
『気づけば君のことをいつも考えてしまっている。
君と話す時はとても楽しくて、心地よい。俺よりも15歳も下なのに・・・・・・。』
「ーー長、課長!」
「あっ、すまない。一之瀬くん。」
「課長、どうかされたんですか?」
「いや、何でもないよ。それより一之瀬くんの用事は?」
「企画書お持ちしました。確認をお願いします。」
渡された書類に一通り目を通す。
「うん。今回のは図案もしっかりしているし、良いと思う。このまま進めてみようか。」
「やったあ!課長に初めて一発で褒められた!あ、す、すみません。ありがとうございます。」
そう言うと一之瀬くんは真っ赤になりながら、企画書を持って自分のデスクへと戻る。
(ふふ、可愛いな)
ふと、目の前のパソコンに目をやれば、先程考えていた言葉が文章化されている。
(うわっ!俺は仕事中に何てことを!)
慌てて打った文字を消し、チラッと一之瀬くんを見れば、真剣な顔をしながら、パソコンと企画書のにらめっこをしていた。
岡本和也 。39歳独身。広告代理店の制作部課長。恋人はいないが、気になっている人がいる。それは同じ部署で入社して2年目に入った、一之瀬悠斗 。24歳独身。男性である。男性をそういう目(恋愛的)で見たのは初めてだ。というか、俺はどちらかと言えば仕事ばかりで女性との交際ですら、長く続かない。最後に恋人がいたのはもう5年も前である。そんな俺が40手前で一回り以上下の同性にこんな感情を抱くなんて想像すらしていなかった。
「あぁ、そうだ。今日はノー残業デーだから、みんなそのつもりで。」
ノー残業デー。うちの社内で特に残業の多い、制作部は月一の金曜日に残業なしの日が設けられている。こうでもしないと各自が残業やら休日出勤を平気でしてしまうからだ。ノー残業デーの次の日はもちろんノー休日出勤だ。
18時ーーーーー。
「それじゃ、みんなお疲れ様。各自きちんと休むように。」
仕事が終わり次第、それぞれが帰っていく。
俺もこのメールを送れば・・・・・・。ふと視線を感じてパソコンから目を離すと。
「お、岡本課長。あ、あの、今日・・・・・・飲みに行きませんか?」
「一之瀬くん? え? せっかくの定時上がりに、」
「俺は課長と飲みに行きたいんです! 先に下で待っています。」
ペコっと頭を下げ、返事をする間もなく、行ってしまった。
(ヤバい・・・・・・。嬉しい。まさか一之瀬くんから誘われるなんて思いも寄らなかった。)
メールを送り、デスクを片付け、パソコンの電源を落とした。
「一之瀬くん。悪い、待たせたね。」
エントランスで待っていた一之瀬くんに声を掛けるとわずかに嬉しそうな顔をして振り向く。やはり、一之瀬くんは可愛い。思わずニヤけそうになるのを必死で抑える。
「さて、どこに行こうか。」
「この近くにお酒もご飯も美味しい店があって、そこで良ければ、」
「うん。一之瀬くんオススメの店なら僕も行ってみたいな。」
普段プライベートでの一人称は『俺』なんだが、仕事上、部下に威圧感を与えないよう、『僕』と言っている。気を抜けば言葉使いが悪くなってしまうし、イメージと違うとかよく言われるからだ。
一之瀬くんのオススメの店はこじんまりとした鶏肉専門の居酒屋。部屋は全てが個室になっていて、他のお客さんを気にせず静かに飲めそうな雰囲気だ。職場の近くにこんな居酒屋があったとは知らなかった。
メニューの中から一之瀬くんオススメ料理を何品かとビールを注文した。
気になる子と二人きりの空間は居心地が良い反面、年甲斐なく緊張してしまう。
「一之瀬くんが僕を誘ってくるなんて珍しいね? せっかくの週末に上司と飲んで楽しいかい?」
決して嫌味とかではなく、15も離れた上司と二人で飲むのは変に気を使うんではないかと思って言ったんだが。
「俺、岡本課長には本当に憧れてて、若くして課長になられたことや、厳しいけれど優しくて、尊敬しているんです。」
目を輝かせながら言う一之瀬くんに俺のほうが照れてしまう。
「それに俺がこの会社に入社したのも岡本課長がいたからなんです。」
「え? そうなの?」
「はい!」
「それって、」
コンコンと戸を叩く音と共に部屋の外から店員さんの声が聞こえた。
どうやらビールとお通しを持ってきたらしい。
「とりあえず、お疲れさま。」
「お疲れ様です。」
カチンと二人のグラスが軽快な音を立てる。冷たいビールを流し込み、さっきの続きを聞いてみた。
「俺、就活が全然うまくいかなくてけっこう落ち込んでて、4年生の春に駅前のカフェでボッーとしてたときに、偶然向かいのビルで見た広告にすごく惹かれて。それまで考えていなかった広告関係もいいなって思ったんです。」
「3年の駅前のビル・・・・・・あ、もしかして。」
「後から知ったんですけど、課長が作ったデザインだったそうですね。それから、ずっと岡本課長に憧れてるんです。俺もいつか誰かの励みになるような広告を作りたいって。」
「はは、改めて言われると何だか気恥ずかしいけれど、部下にそう思われて僕は光栄だよ。」
(というか、嬉しすぎてヤバイ。)
その後しばらくは残りの料理も運ばれてきて、食べながら普段あまりしないような他愛もない話をした。
デザインの勉強はしたことがないという一之瀬くんだが、彼は柔軟でたくさんの引き出しを持っている。
何杯目かのビールを飲んでいると、終電が近づいていることに気づいた。
「一之瀬くんはたしか、電車だったよね?」
「あー、はい。そうです。」
お酒に寄ってるのか赤い顔しているのがいつも以上に可愛らしい。このまま連れて帰ってしまいたい。そんな考えが一瞬だけ過ぎった。
「じゃあ、電車なくなるし、そろそろ帰ろうか。」
誰かとこんなに長い間、居酒屋で話したのは初めてだ。話す内容も尽きないし。帰るのがこんなにも惜しいと思うのも初めてだった。
「課長。俺・・・・・・まだ、帰りたくないです。」
え? 相当酔ってる?
俺よりも背の低い一之瀬くんは何故か立ち上がった俺のスーツをちょこんと掴みながら赤い顔で上目遣いでそんなことを言った。
これが同性ではなくて、部下でもなくて、異性なら速攻で家に連れて帰るところなんだが。
「一之瀬くんってば、まだ飲み足りないとか?」
何とか理性を保ちながら、普段通りに振る舞う。
「す、すみません・・・・・・。俺、そ、その、」
パッと手を離し、慌てた様に立ち上がる。その瞬間、テーブルに足をぶつけた一之瀬くんが倒れそうになるから、反射的に手を伸ばした。
「っと、危なかった。大丈夫?」
前のめりに倒れそうになった一之瀬くんの腰辺りを引き寄せたもんだから、その勢いで俺に抱きつく態勢になってしまった。
「だ、大丈夫、です。」
一之瀬くんは小さな声でそう言うと何故だか、俺のシャツをギュっと握りしめる。
(これは俺がヤバイ。これ以上は。)
慌てて一之瀬くんを離すと真っ赤な顔で見上げてくる。そんな顔で見られると、ありえない方向へ期待してしまうんだが。期待してもいいんだろうか。
「一之瀬くんが良ければ・・・・・・うちに来る?」
俺はとうとう言ってしまった。
「はいっ!」
赤い顔をしながら、嬉しそうに返事をされ、俺の心臓がドキドキと煩い。
俺の家は電車で一駅で着く。
あの後、会計を済ませ、一之瀬くんと一緒に駅へ向かい、電車に乗った。ただ職場の部下を家に招くだけなのに、変にドキドキして落ち着かない。店を出てからは一之瀬くんも無言で俺と目すら合わない。さっきまであんなに喋ってたのに。
駅に着くと、まだ飲みたいと言った一之瀬くんの為にも緊張を解す俺の為にもおつまみと酒を近くのコンビニで買った。そしてマンションに着いた。
「一之瀬くん、どうぞ。」
「お、お邪魔します。」
「その辺、適当に座ってて。」
「は、はい。」
さっき買った酒を二本とおつまみを出し、残りの酒は冷蔵庫へ入れておく。一之瀬くんのいるリビングへ向かうと、ソファとテーブルの間で正座して待ってるから思わず笑いそうになってしまった。
(本当に可愛いな。)
「一之瀬くん、そこじゃ何だからソファに座りなよ。」
「すみません。」
恥ずかしかったのか顔を赤くしてソファに座り直す。ビールとおつまみをテーブルに置き、俺も隣へと座った。
「一之瀬くんってさ、普段からこんなに酒飲むの?」
「えっ、あ、いや、普段はここまで飲みません。」
「へー。そうなんだ。てっきり物凄い酒豪なのかと思った。飲み足りないって言うから。」
笑いながらそう言うと、グイッと酒を飲んだ一之瀬くんが俺の方を向く。
真っ赤な顔で目がやや、とろんとしていて、妙に色気すら感じてしまい、心臓がまたドキドキと煩い。理性を保つことだけを必死で考えていた。
「あのっ、お、俺・・・・・・か、課長が好きです。その、えっと、れ、恋愛的な意味で。」
「えっ?」
一之瀬くんが俺を好きーーーーー?
気づいたら一之瀬くんをソファに押し倒していて、俺に腕を抑えられた一之瀬くんが耳まで真っ赤にしながら、びっくりしたような顔で俺を見ていた。
あ、やべえ・・・・・・無意識に俺は何てことしてんだ。けどーーーーー。
そのまま柔らかそうな唇に自分のソレを押し当てる。舌で口内へ侵入すると先程まで飲んでいたビールの味がする。
それから数分か数秒かわからないけれど、唇を離すと、目を見開いて真っ赤になりながらやや涙目で何かを訴えかのように見てくる。
「お前・・・・・・その顔は反則だろ。」
何だこれ、クソ可愛すぎる。そんな顔で見られたらその先までしたくなってしまう。
ぎゅっと抱きしめ、一之瀬くんの肩のあたりに顔を埋め、俺も彼への想いを告げた。
「俺も一之瀬のこと、好きだよ。」
部下に対しての体裁とかどうでも良くなってありのままの自分でそう告げると。
「か、課長ってこんな感じの人だったんですね。課長こそ、反則です。」
と、両手で口元を抑えながら相変わらず真っ赤な顔で見上げる。その仕草が可愛すぎて、俺の理性は崩れていく。
「もう一回キスしていい? できたら他のこともしたい。」
「そ、そんなこと、聞かないでくださいっ。」
「あー、もう、そういうところが可愛すぎて、これ以上は我慢できねえ。」
口元にある手を退けて、先程と同じようにキスをする。何度か唇へのキスを繰り返し、そのまま耳元へ口付ける。わざと音を立てるようにして耳を舐めると、わずかに一之瀬くんの喘ぎ声が漏れる。正直、男相手ははじめてだし、いくら好きでも萎えるんじゃないかと心配したけれど、今まで付き合ってきた彼女たちよりも可愛くてエロくて、興奮してしまう。
「一之・・・悠斗って耳弱いんだ?」
「んっ、か、課長っ、耳元でしゃべんないで・・・・・・。」
可愛すぎると何故だがいじめたくなる。もちろんこんな感情も初めて抱いたんだけど。
ふぅと息を吹き掛ければ、より一層甘い声が漏れる。普段話す声よりやや高めに響く声はアラフォーおっさんが興奮するのに十分な要素で、下半身が反応するのがわかる。
「悠斗、抱かせて。」
「・・・俺も。課長、」
「その、課長ってやめねえ? 部下犯してる気がして、いや実際そうなんだけど、何ていうか気持ちの問題っつうか、和也って呼んで。」
「か、和也さんに抱かれたい、です。」
「可愛すぎだろ。」
と言ったものの、男の抱き方なんて知らないし、どうしたものかと悩んでいたら、悠斗が照れ臭そうに俺を見る。
「・・・・・・俺、男相手の経験あるから、今日は和也さんは何もしなくても大丈夫です。」
ソファだと狭いから俺達は寝室のベッドへと移動した。
そして今度は俺を押し倒すかのようにし、悠斗が俺に跨るような態勢になる。そして、キスをする。
「和也さん、嫌じゃなきゃ、触って下さい。」
着ていたTシャツを捲り上げ、俺を見下ろす。女と違って何の膨らみもない胸だが、嫌悪なんて一切感じない。そっと、胸の先端に指を這わせ、弄るとそれだけで気持ちよさそうな顔をする。ぐっと首元に手を伸ばし、引き寄せ、舌で弄ると甘い声が漏れる。同時に下腹部辺りに硬いものが当たる。
「俺も脱ぐから、悠斗のも脱がしていい?」
コクコクとうなづくのを確認してから、自分と悠斗のズボンと下着を脱がせた。顕になった男の象徴に俺は更に興奮していた。何もしないでじっと見ていたからか悠斗が不安そうに見ていた。
「や、やっぱり、男相手は無理ですか?」
こいつは何を見て泣きそうになってるんだ?俺のだって、悠斗に反応しているというのに。
「バーカ。俺だってお前に興奮してるっての。なあ、触っていい?」
男相手は初心者だし、どうしたらいいのかわからず、確認をしてみた。
「うん。和也さんに触られたい。」
素直で甘え上手でどの女よりも興奮する。
俺は無意識に自分のと悠斗のを同時に扱いた。どちらともなく先端からヌルっとした液体が溢れ出てその液体で滑らすように手を速めると悠斗が甘くてエロい声を上げる。
「あっ、ん、和也さん、もうイキそ」
「悠斗、俺もっ。」
空いてる方の手で悠斗の頭を引き寄せ、やや強引に口内を犯す。その間も扱いてる手は止まらず、卑猥な音を響かせる。
「なあ、お前の中に挿れたい。」
男同士がどこを使うかは何となくの知識で知っているつもりだ。つか、挿れられるとこなんて一つしか思い当たらない。
「和也さん、俺の後ろ・・・・・・あ、アナル触って。」
耳元で囁くようにお願いされ、俺はそっと悠斗のアナルへと指を入れる。女相手に一度だけ経験はあるが、どこが気持ち良いとかはわからない。悠斗の顔を見ながら、中を探っていく。
「あっ、んぅぅっ!!!」
悠斗の声がより一層甘美を増し、息がだいぶ上がっていた。
「ここ、気持ち良い?」
うんうん、と言わんばかりに頷く。そのまましばらく中を弄ると、悠斗から「挿れてほしい。」と言われた。
その態勢のまま、萎えることを知らない俺のモノを悠斗の中へと侵入させた。動いてもいいって言うから、突き上げるように動くと、悠斗の艷声は止まらない。
「悠斗。可愛い。お前の中、すげえ気持ち良い。」
俺に跨り自らも腰を振る悠斗がエロすぎて、悠斗の中で更に大きくなる。そうすると、キュッと締め付けられた。
「悠斗、そんな締め付けるなって。そんなんされたら、イキそうになるから。」
「お、俺も。気持ち良すぎてイキそうです!」
「可愛い顔して煽るんじゃねえよ。」
動かすのを速めるとそれに合わせて悠斗が甘い声を上げる。悠斗のモノからは液体が溢れていて、その光景を目の当たりにした俺は悠斗と同時に果てた。
「ごめん、思いっきり中出ししちまった。」
「か、和也さんなら大丈夫です。」
「またそんな可愛いことを。」
真っ赤になりながらニコっと笑う悠斗にキスをした。
「和也さん、男相手でも嫌じゃなかったですか?」
「いや、お前。今更かよ(笑)」
不安そうに見てくる悠斗が子犬のようで愛おしくてたまらない。頭をよしよしと撫でると安心した顔をする。
「全然嫌じゃなかったよ。むしろ、まだまだ余裕でヤレそう。」
「なっ!? か、和也さんの、エッチ。」
そう言って布団を被る悠斗が年齢の割に子供っぽくて可愛さしか感じない。
布団を捲り、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「冗談だよ。でも嫌じゃなかったのはホント。」
モゾモゾと態勢を変え、俺へと向き直る。数時間前までは少し気になる部下だったのに、今では子犬のように見てくる悠斗が愛おしい。
「悠斗、好きだよ。俺と付き合って下さい。」
「はいっ!俺も和也さんが好きです。」
こうして俺達は恋人同士となった。
まさか、40歳になる手前で15歳下の同性の恋人ができるなんて誰が想像しただろうか。
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