1 / 1
第1話
風祭冬木には好きな男がいる。名前は瀬良裕介。ルックスが良く運動が好きで勉強もそこそこできるクラスで中心にいるような人気者。人当たりがよく、周囲をよく見て行動しているからだろうか。冬木が目をやると大体誰かと一緒にいた。
そう、無縁だ。冬木と裕介はある一つを除き接点が全くないのだ。
冬木は見た目に特徴がなく、低い視力を補うために身に着けている眼鏡くらいしか印象に残らない。典型的なオタク感の否めないフツメンというやつだ。
ではそんな二人の接点はというと、冬木と裕介は幼馴染ということだけだった。
幼い頃こそ一緒にいたが少しずつ一緒にいる時間は減っていった。離れたのは裕介の方だ。
中学に上がった頃から一緒にいるのに気まずそうな顔を見せた裕介が気に入らず、冬木は逃げ出した。
「そんなに僕と一緒は嫌なのかよ」
そう吐き捨てて逃げ出してから3年経ち、高校生になった今も二人の距離感は微妙なままだ。
「風祭くん」
「…ぁ、はい。僕に何か?」
「えっとさ、確か瀬良くんと家隣同士だよね。今日瀬良くん風邪引いて休んでるから、このプリントを届けてもらってもいい?」
クラスメイトの女子にそう言われ何枚かのプリントをもらう。まあものを届けないほど彼に怨恨を抱いているわけでもないので「わかった、僕がやっておくよ」と返しプリントをそそくさとファイルに入れる。
助かった!と言わんばかりの顔で女子生徒は喜ぶとさっさと教室からいなくなってしまった。
「まあ、僕ってこういうやつだよな」
人気者と接点が中途半端にあるせいで体よく使われる存在。小学生の頃からチョコの受け渡しを頼まれている僕はそういうの慣れてるんだ。
なんて内心呟きながらも複雑な感情を胸に潜め、放課後の夕日の差し込む教室を出て、裕介の家へと向かった。
裕介の家はそこそこ裕福な家庭で、家の外観は冬木からすると結構豪華に見える。
だが別に冬木の家もそんなにヤバい代物というわけでもなく、隣の芝生が青く見えるようなものだった。
昔はよく遊ばせてもらったな、なんて思い出しつつインターホンを鳴らすと裕介の母親の声が聞こえた。
「はい、瀬良です」
「お久しぶりです、冬木です。今日裕介が風邪で休んでいたのでプリントを持ってきました」
「あらあら!わざわざありがとう。じゃあちょっとまっててね」
音声が途切れ少し待っていると玄関のドアが開かれ裕介の母-典子が姿を見せる。
「プリントありがとうね。お礼にお茶とか用意するから入っていきなさいな」
「えっ、いや、そんな大したことしてませんし…そこまではしなくても」
「いいのいいの!私がお礼したいだけだから!ほら入った入った」
やや強引に家へと入れられるとリビングの椅子に座らせられる。
「いや、本当になんかすみません…」
「そんな事言わなくていいのよ。私がお礼したくてやってるだけだし。あと聞きたいことがあってねえ」
「聞きたいことですか?」
なんだろう、確かに最近裕介とは疎遠というか、あまり積極的に会話はしなくなったがその事だろうか。
思考していると典子の口が開かれた。
「最近の裕介ね、昔ほど冬木くんと一緒にいないでしょう?高校入ってからは特に」
「ええ、まあ…そうですね」
「どうもそれを気にしてるみたいなのよあの子。あなたと一緒じゃないと暇だって言ってたわ」
まさかそんな話が出てくると思っておらず冬木は動揺する。自分なんか大勢の一人に過ぎないと思っていたからこそだ。
「暇って…あいつ学校じゃ人気者ですよ…」
「色んな人から好かれるのもいいことだけど、昔から仲のいい子と一緒でいられる時間が減るのはまた悲しいのよ。裕介、今2階で休んでるから顔を見せてあげてほしいわ」
「わ、わかりました…行ってきます」
ともだちにシェアしよう!