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第1話

 春休み明けに受けた健康診断の結果は仰々しい封筒に入れられて返ってきた。 「今配布したした封筒には、皆さんの大切な個人情報が入っています。なので、校内では開封せずに、必ず帰宅してから保護者の方と確認するように」  教卓に手をついている担任が教室中を見回しながら、物々しい口調で注意事項を述べる。  生徒たちは真面目な顔をして、封筒を鞄にしまった。しかし、この中の何人が担任の言いつけを守るのだろう──。 「朝のHRを終わりにします」  日直が号令を終えると、担任は出席簿を持って教室から出て行く。  その背中を見送った生徒たちは、鞄に仕舞った封筒を取り出して開封し始めた。  ぼくも、周りに倣って鞄から封筒を取り出す。結果は予想できるが、やはりこの目で確認したいという好奇心には勝てない。  結果を確認した生徒たちが騒ぎだしたのを横目に、封筒の中身を確認する。 (あれ、思ったよりプリントが多い……?)  封筒に入っていた想像より多い書類の枚数に驚きつつ、1番手前にあった健康診断結果票を引っ張り出した。  1行目に学校名、2行目に学年、クラス、名簿番号、氏名と印字されている文字を順に目で追っていく。  3行目、性別の隣に今までは空欄だった『二次性別』項目を見つける。  そこには『β』の記号が記されているだろうと確信してそこに当てはまる記号を確認すると、予想とは反して『Ω』と記されていた。 (は……?)  何かの間違いではないかと、瞬きをして再度プリントに視線を戻す。何度見直しても記されている記号に変化はない。  万に一の可能性で先ほど氏名を確認したときに自分のものでない名前が書かれていたことに気がつかず、実は他人の結果が自分宛の封筒に紛れてしまったのだと思い至り名前を再度確認する。  しかし、そこには間違いなく『篠原 蓮』とぼくの名前が記されており、予想は呆気なく打ち砕かれた。  さらに、同封されていたほかのプリントの『オメガ専門クリニック一覧』『はじめてのネックガード』『オメガハンドブック』という表題が、現実から目を逸らそうとしていたぼくに追い打ちをかける。 「なんだよー。こんな封筒に入ってるのに健康診断結果票しか入ってないとか過剰包装だろ」  教室のどこからか聞こえてきた声でぼくは現実に引き戻される。  他の生徒たちの封筒には健康診断結果票しか入っていないようだ。  ぼくは何事もなかった風を装いひっそりと封筒に健康診断結果票を戻して、鞄の奥底にしまい込んだ。 (どうしよう……、どうしよう……!)  予想していなかった結果に困惑したぼくは、その日をうわの空で過ごした。

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