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第7話
何戦目かの対戦を終えたタイミングで、ベッドルームの個室がノックされた。
「篠原くん、もうすぐ授業が終わるけど起きてる?」
声をかけてきたのは湯澤先生だった。
「起きてます」
「じゃあ、もう1回フェロモンを測らせてもらえる?」
先生は測定機を片手にベッドルームに入ってきた。
頸に機器を翳して、測定完了を知らせる機械音が鳴るのを待った。
数秒後に測定を終えた測定機がピーッと音を鳴らした。先生は表示された数字を見て少し難しい顔をした。
「さっきより、少し数値は上がってるけど体の調子はどう?」
「特に変わりはないです」
「じゃあ、自分で鞄とって来れそうかな? さっき測った時よりフェロモンの数値が上がっていることが気がかりだから、今日は大事をとって早退した方がいいと思うんだ……」
そう言われたところで、実感はあまりなかった。
ぼくが黙ってどうするべきか考えていると、先生はさらに続けた。
「篠原くんはまだ、発情期を迎えたことがなかったよね? 個人差はあるんだけど、発情期の前に前兆がある人もいるのね。例えば、普段より少し体温が高くなったり、フェロモンの数値が通常時より少し多めに出たり。こういった症状がではじめると、1日から2日いないに発情期が訪れるという確率が高いとされている」
ぼくは、少し考えて「帰ります」と言った。先生は「その方がいい、鞄は先生がとってくるね」と言うので、その言葉に素直に甘えることにした。
チャイムが鳴ると、先生は保健室を出て行った。ぼくは先生の背中を見送った後、拓人に『体調が良く無いから、早退することになった』とメッセージを送った。休み時間ということもあり、既読のマークがすぐに付いて『今どこにいるの?』という返事がきた。
どう返信しようかと迷っていると、『保健室?』と追加のメッセージが届く。
このまま返信しないと、拓人が保健室まで来そうなので『もう帰るところ』と返事をした。
機械でしか測定できないとはいえ、今のぼくは普段よりフェロモンが出ているらしいのだ。万が一にでも、拓人にオメガであることがバレるような事態は避けたい……。
彼の隣にいるためには、ベータであると彼に偽り続けなければならない。華やかさの欠片もない凡庸なぼくがオメガとして彼の隣に立とうなんて烏滸がましいのだと自分に言い聞かせる。
彼のように完璧なアルファには完璧なオメガがお似合いなのだ。そう、赤松千寿先輩のような──。
赤松先輩は、学年は違うけれど新入生の間でもすぐに噂が広がるような特別な存在だった。
綺麗で、頭も良くて、大手医療機器メーカーの社長令嬢だという話だ。両親が医者である拓人にとっては最良の相手ではないか……。
考えれば考えるほど、胸がどうしようもなく痛くなった。
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