119 / 154
偽りの笑顔の裏側は
「でも、あー、楽しかった!彰人、大きくなったね!」
床で胡座かいたまま、涼太は両手を上げ、疲れたー!と笑いながら背伸びをした。
俺に背を向けたまま。
微かに横顔しかわからない。
涼太は再び、おもちゃの片付けを再開した。
「....てかさ、豊」
「....ん?」
「....あの。布団ある?」
「....布団?」
涼太が黙りこくり、こくん、と頷いた。
「....一緒に寝れないというか。俺」
「....なんで?なんもしないけど、別に」
「....でも、なんか怖いし、ごめんなんだけど....」
涼太は表情を見せないまま、微かな声でそう言った....。
「....怖い?俺が?」
「....豊が、ていうか...。セックスが、その、俺、嫌い、ていうか」
驚愕で目を見開いた。
....セックスが嫌い?
「...お前、俺を誘惑したのに?」
....なんだ、これ。
目の前がチカチカする、この感じ。
驚愕で目を見開いて、瞼が...閉じれない。
なんだ、この感じ....。
「....うん。震えてた、ホントは。気持ちよくなったらどうしよう、て、怖くて」
「....なんで、あ」
父親の...父親のレイプと被る、のか、俺、俺は....涼太の、精一杯の嘘に気づけなかった...。
情けない。
涼太に樹を重ねて....俺は...
涼太の父親となんにも、なんにも変わらない....。
惨めだ。
「....ごめんな、涼太」
「なんで、豊が謝んの....?」
涼太がまた不思議そうに俺を振り向く...。
「....泣かないで、泣かせてるみたいで嫌だから...」
「....ごめん...。お前は泣けないのに、泣けなかったのに、俺、俺、安易に泣くなんて...許してくれ、涼太、ごめん、気づいてやれなくて」
涼太はきょとん、として、笑った。
涼太は自分の感情に疎い....。
多分、父親の虐待やレイプ、涼太を狂わせ、涼太は1人で必死にもがいてたんだ。
誰にも悟られまいと、きっと....。
そんな涼太を俺は...。抱いてしまった。
殴ってしまった。殴る価値もないだなんて...言ってしまった....。
「....お前の辛さ、俺には...想像がつかない、けど。父親からなんて...悔しいよ、俺。自分に腹が立つ...本当に、ムカつく、自分が....」
涼太が近づいてきて、ベッドに座る俺の隣ではなく目の前の床に座り込んで、心配そうに見上げてきた。
「....もう泣かないでよ。だから、俺、知られたくなかったのに。樹にも豊にも...二人とも優しいから...」
俺は涼太の頭を抱え込み、泣いた。
悔しくて、惨めで。
「....ごめんな、涼太。俺が必ず幸せにするから。俺。ごめん、本当に」
放心状態みたいになってた涼太がようやく微笑んだ。
「....ありがとう、豊」
向日葵みたいな笑顔で...。
その晩、涼太とは同じベッドではなく、布団を敷いてやった。
ベッドを勧めたけれど、涼太は布団の方がいい、て言うから...。
寝つくまで、樹に誘われた映画について話した。
「俊也は二人きりで行きたい、会いたいと思うんだけど。たまにはさ。二人きりで行ったら?祭りとかなら一緒に行こ。涼太も誘ってさ」
樹にそう言った。
「樹らしいね」
涼太はそうはにかんだ。
「....俺があげた、さ。アロマやカモミールティとか、どうだった?まだある?」
「ああ、あれ!?もうすぐ無くなりそうなんだよね、あれ、何処で買ったの?なんか落ち着く感じするし、買いに行きたいから」
「一緒に行くか?明日にでも。店、教える」
....コテージのあの数日後。ネットで不眠症とかの情報を調べ、店を探し、店員に尋ねながら購入した、アロマグッズのお店だ。
「....うん。なんか、デートみたい。照れるね、なんか」
ああ....。
涼太が、変わった。自然に笑えるようになった....。
どうして?
「....なに?豊」
「ごめん、なんでもない。着替え、貸すな、俺の」
「うん。ありがとう、豊」
ベッドの中から布団で自分で腕枕して眠る涼太の背中を眺めた。
....涼太を幸せにする。
二度ともう、うなされたりしないよう....。
案外、俊也に相談してもいいかもしれないな...。
一時期、医者、目指して、向いてない、て諦めた、て言ってた、けど...。
俊也もいっぱいいっぱいだろうし、な。
涼太の寝顔を見つめながら、しばらく眠れなくて、そんな夜だった。
ともだちにシェアしよう!