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第54話
「じゃあ、ちょっと待ってて…」
ハッと気づいて小敏 がベッドから飛び出した。
「え?なに、なに?」
驚く優木 を取り残し、小敏はウォークインクローゼットに駆け込み、自分のスーツケースの中から、ずっと大切に持っていた紅 い箱を取り出した。
それをギュッと握りしめてから、小敏は優木の待つベッドへと急いだ。
「どうした、シャオミン?」
バタバタする小敏に、優木が不思議そうな顔をしてベッドの上に起き上がっていた。
「今度はボクからのプレゼントだよ」
ポンっと勢いよくベッドに飛び乗って、小敏は微笑んだ。
「誕生日はシャオミンで、俺じゃないだろう?」
戸惑う優木は、緩やかな笑みを浮かべながら、小敏の手元を覗き込んだ。
「あのね…、これ…」
「?」
小敏はもったいぶった様子で、手の中の箱を開けた。
「これは…」
笑っていた優木の顔が、見る見る変わった。
「ボクの…、父がアレだからさ…」
小敏は、わざと優木と目を合わさず、照れ臭そうに話し始めた。
「文維 と煜瑾 みたいに、婚約して家族に祝福されるってわけにはいかないんだけど…。婚約指輪じゃなく、ただのペアリングならいいかな、って」
「シャオミン…」
小敏の紅い小箱の中から現れたのは、お揃いの24金の指輪だった。幅が5ミリほどのシンプルな物で、トップに小さなダイヤの粒が1つ輝いている。
中国人男性がこれ見よがしに身に着ける指輪より、もっとずっと都会的に洗練されている。
「これ…、親友の煜瑾にデザインしてもらったんだ」
「へえ、ステキだなあ。日本人の俺が着けても、そんなに違和感がないよ」
優木も気に入った様子なのが分かって、小敏は嬉しそうだ。
「そう。日本人のオジサンである優木さんでも、オシャレな上海っ子のボクが身に着けても似合うようなのって言って、煜瑾に頼んだんだよ」
「煜瑾くんは、美形なだけじゃなくて、本当に才能もあるんだなあ」
優木が感心して言うと、小敏はちょっと唇を尖らせた。
「こんな時に、煜瑾のこと美形とか言わないでよ…」
「バカだなあ、シャオミン以上に俺を夢中にする美形はいないよ」
「ふふっ。優木さんってば、正直者なんだから~」
浮かれた様子で小敏は笑い、音を立てて優木の頬にキスをした。
「ね、手を貸して」
小敏に言われて、こういうことに慣れない優木はキョトンとしていたが、仕方ないといった顔で小敏が優木の左手を取った。
小敏は一瞬、優木の眼を見て、それから優木の左手の薬指に黄金のリングを嵌めた。
「じゃあ、次は俺だね」
優木は静かにそう言って、小敏の手の中の紅い箱から残った1つの指輪を取り出した。そして、自分の武骨な手と違い、白く、細長く、指先まで手入れの行き届いた美しい小敏の左手の薬指に、自分と同じリングを嵌 めた。
「お揃いだね…」
「そうだね、嬉しいよ、シャオミン」
そして、2人は未来を誓うように厳 かに口づけた。
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