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第56話
「いつか…」
「ん?」
ふいに、遠くを夢見るような目をして、優木 は言った。
「シャオミン…。いつか、俺と一緒に行こうか…。俺の生まれ、育った所へ」
「うん!行きたい!」
小敏 は、迷うことなく即答した。
そんな小敏が、優木には嬉しかった。
「そうだな、桜の咲く頃なんかどうかな。とても綺麗な桜並木があるんだ」
「いいな~桜、大好き。京都に住んでいる時も、毎年、あちこちでお花見をしたよ。とってもキレイで、とっても楽しかった…。でも、優木さんと一緒なら、きっと、もっと、ずっと楽しいと思うよ」
小敏は自然豊かな日本の田園風景の中、桜並木を大好きな人と並んで歩く姿を想像した。それはとても安らぎを覚える光景で、柔和な優木の笑顔に通じる温かさだった。
きっと、幸せを絵に描いたらこんな風になるのだろうと、小敏は思った。
この幸せが、いつまでも、いつまでも、ずっと続いて欲しいと小敏は願った。
「いつか行こう、必ず」
「うん、絶対にね」
優木と小敏は、熱い視線でジッと見つめ合った。何も言わなくても、互いが想い合っていることだけは確信できる。
「…絶対に…」
2人はもう一度しっかりと抱き合い、口づけた。
「約束だよ、優木さん」
「ああ、約束だ。絶対に2人で行こう」
小敏は次の春には日本に行くことを思いながら、優木と体を重ねた。
***
いつも通りに、たっぷりと愛し合った翌朝、小敏は優木より先に目を覚ました。
雨は相変わらず降り続いているが、もうこの雨音にも慣れてきたのか気にならない。
ゆっくりと身を起こし、小敏はベッドから抜け出した。そのまま、完璧とも思える裸身でベッドからバスルームへと向かう。
「ふん♪ふん♪ふ~ん♪」
すっかりご機嫌のいい小敏は鼻歌を歌いながら、シャワーを浴びた。
「スタイル良くて、顔がキレイで、歌まで巧いなんて、まさしくアイドルだな」
背後から声を掛けられ、小敏は驚いて振り返った。
そこでニコニコしながら小敏の全裸を堪能していたのは、やはり小敏の最愛の恋人、優木だった。
「盗み見?」
振り返りざまに、小敏は誘惑的な小悪魔の顔でそう言った。だが、大人で、小敏の扱いに手慣れている優木は動じない。
「いや、堂々と見てるけど?」
2人は顔を見合わせて、声を上げて笑った。
それから小敏が手を出すと、優木がそれを握り返し、2人は抱き合って広いシャワーブースに入った。
そのまま楽しそうに、いかにも高級リゾートホテルらしい香水のような上品な香りのボディソープを泡立てて、お互いを愛撫のように触れながら洗いあった。
「やだ、優木さんってば…。そんなトコばっかり~」
「ええ?イヤなのか?じゃあ、やめようか?」
「もう、優木さんのイジワル~」
こんな風なおふざけは、いつも自宅のバスルームでも楽しんでいるが、同じことをこの高級リゾートホテルで繰り返しても、2人は飽きることなく楽しんだ。
「ねえ、優木さん。今朝は、朝ご飯はここで食べようよ。雨の中、わざわざ本館まで行くのが面倒だよ」
「そうだねえ。でも、他にすることないんだぞ?」
「そう思う…?」
小敏は艶めかしく微笑んで、優木を引き寄せ、深く口付け誘惑した。
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