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第1話
「誰にも頼れないんだっ……」
あの人はそう言った。
そして「お前にしか頼めないんだっ……」とも言われた。
だから抱いたとは言わないが、あの時言われた提案に拒否出来なかった。
●
呼び出された場所は高級ホテル。あの人はベッドでとても苦しそうだった。
「降谷さん……」
「呼び出して……悪いっ」
「いえ」
「あのっ……今日は」
「……」
「ぁ、どこか具合が?」
「……まぁ、そんなところかな」
「薬、とか……。いや、医者ですか? 症状は……」
「そうじゃ、ないんだ……」
「ではどうすれば……」
「時々、こうなるんだ……。どうしようもないっ……」
「……」
「今まではどうにかなってきた。けどっ……」
「……」 今回は違うということか……?
一歩。また一歩と近づくと彼の近くに膝まづぃてその額に手を伸ばす。
「熱は」
「ある意味、あるねっ……」
「?」
「風見っ」
「はい」
「お前にしか頼めないっ」
「はい」
「抱いて、欲しいっ」
「…………ぇ」
「拒否してもいい。今、返事をくれっ」
「ぇ、あはいっ。ぇっと……」
顔を真っ赤にして荒い息遣いの彼が返事を待っている。
拒否してもいいと彼は言った。
だけど、こんな状況の彼を放っておけるはずもなく、俺は彼の額に置いた手を頬に移動させると同時に彼に抱き着いていた。
「ぁっ……」
「本当に。本当にいいんですか!? 俺、は……あなたをっ……」
「これは僕が望んだことだ。お前が望んだことじゃないっ。だから安心しろ。全ては僕が望んだことだっ」
「わ……かりましたっ」
「言っておく。こうなったからには、お前も楽しめ」
「……はいっ」
それから先はよく覚えてない。
クラクラしていた。
彼の褐色の肌に舌を這わせながらベッドに上がると乱暴に服を脱ぎながら布団を剥がす。
全裸の彼が目に入ってきたと思ったら手が伸びてきて首にしがみつかれ体に脚が絡みつく。
唇に深く深いキスをされて「本当に!?」と思いながらもそれを味わう。
彼同様全裸になって抱き合いながら何度もキスを繰り返す。背中に回した手を徐々に下半身に持っていくと、男の入れるところに指を差し入れる。
「ぁっ……」
「もっと深く……。あなたを味わって、いいですか?」
「ああ。もっと深く……貪欲に僕を味わってくれっ」
「ええ。言われずとも、ですっ」
「あっ……ぁぁっ……んっ……んっ、んっ、んっ」
深く差し入れた指を抜き差しながら本数を増やす。
「いつも……どうしてるのかと思ってました」
「なにが? ぁっ……ぁぁっ……ぁ」
「こういう処理ですっ」
「ふふふっ……ぅ……ぅ。どうしてると思う?」
「まさか誰かを金で呼ぶとか……してないですよね、そんなの」
仕事柄そんな危険な行為はするはずもないのは俺にだって分かる。
「いつもは、独りでどうにかしてるっ……。けど……」
「……」
「時々どうしようもなく人肌が恋しくなるんだ。ぁっ……ぁ……ぁ」
「それは、俺もですっ。こんな仕事をしてると……誰も信じられないですしね」
「ああ。ぁっ……ぁっ……ぁ」
入れた指で中を探りながら舌先で乳首を舐めてから口に含んでコリコリと味わう。
そうしておいて余ったほうの手で彼のしなやかな体を撫で回し、汗ばんでいるところを執拗に楽しむ。たとえば項とか脇の下とか。
「汗がっ……」
「降谷さんの匂い、好きですよ」
「中の指がっ……ぁっ……ぁ、ぁぁっ……んっ」
「熱いです。降谷さんの中っ……。前も、触っていいですか?」
「……ぅん。僕もお前のを……」
「いえ、私はあなたの中に入るので、そこで堪能させてもらいますっ」
彼のモノは触っても、彼に自分のモノを触らせるなんて、とんでもないことだと思った。だから丁重にお断りをしてそっと彼のモノを握る。
「んっ……」
「……」
「しごいて……」
「はい」
言われて前と後ろを同時に攻める。
「はっ……ぁぁっ……んっ! んっ! んっ!」
必死になって首にしがみつきながら腰をくねらせてくる彼の汗の匂いと精液の匂い。自分のものと混ざり合ってどうにかなりそうだった。
「あっ! ……あっ……! あっ……んっ!」
ドクドクドクッと彼が精を放つ。俺の手の中で……。思わず触ってもいない自分のモノからも出てしまっているんじゃないかと思うくらいだ。
「僕だけごめんっ……」
「いえ」
「入れていいよ」
「……」
「入れてくれ」
「……はい」
躊躇している気持ちを見抜かれた。俺は自分を叱咤し、彼の中から指を引き抜くと脚を担ぎ上げて一気に突き進んだ。
「ああっ! んっ! んっ! んっ!」
「すみませんっ。ちょっと今、自分で自分を制御出来ませんっ」
ガンガン攻め立てて彼の中をかき乱す。
大きく身を震わせて体を開くその姿に夢なんじゃないだろうか……と思ったりもしてる。
だけどこの体温と立ち込める匂い、感触が現実なんだと教えてくれている。
覆いかぶさってその艶やかな肌に思わず歯を立てる。
ビクビクッと反応する彼に謝ろうとしてやめた。その代わり、より強く、より深く彼の中に入り込もうと試みる。
「あっ! あっ! ああっ……んっ! んっ! んっ!」
切なそうな表情に艶やかな声、汗ばんで光る体に張り付く金色の髪。何もかも、瞳に映ってはいても決して触れられないものだと思っていたのに……。
こんなあなた、初めて見た。
一線を越えてしまった今、心のどこかで「再度」と言う言葉が頭を過っては消える。
駄目だと思っても「再び」とどこかで思っている。
ガンガン抜き差ししながらも、もうそろそろ限界が近づいてきているのも分かる。
「抜きますっ!」
「駄目だっ、そのまま! そのまま中に、出して、欲しいっ……!」
「……わ……かりました……。では中に……出しますっ!」
「うっ! ……ううっ! ぅっ! ぅっ……!」
我慢出来ずに彼の中にドクドクッと勢いよく射精する。
彼の中に……大量の精液を注ぎ込んで満足した俺は、萎えたモノを抜こうとして止められた。
「このまま。僕の我慢の限界まで……一緒にいて欲しい」
「ぇ……?」
「まだ。まだ一緒にいたい、って言ったら駄目か?」
「いえ、大丈夫です。でもまた……ってなったら……」
「またすればいい」
「ぇ……」
「しばらく。まだ一緒にいて欲しいっ」
「はい。私で良ければ」
「うん」
口にはしたものの胸のドキドキが止まらないっ。
彼の中に放った精液がちょっとちょっと漏れ出してきているのが分かる。
溢れるほどに注いでしまったのは反省だが、それだけの価値は十分にあるし、今後これだけ同等のものが来るとは思えない。
でも相手が彼なんて未だ信じられないでいた。
〇
「悪かった」
「いえ」
あれから何度も繋がって、彼のあられもない姿を堪能した。
乳首も擦れれば感じてしまうほど十分に味わったし、モノから垂れる雫を舌で掬い取り音を立てて吸った。
袋も口に含んで舌で転がして甘噛みしては、開脚している彼の中心に陣取っている優越感を覚えた。
なのに今、ドアを閉めようとしている彼は鉄仮面上等いつもの彼で、弱味をいっさい見せない仕草で微笑んでいた。
軽く会釈をして歩き出すとドアが閉まる。
「これで、良かったのか?」
いいも悪いもない。すべてはもう終わってしまったことだ。
でも俺は知っている。彼の反応、匂い、汗、精液。そして上ずった甘い声……。
好きです。
直にそう口に出来たらどんなに楽だろう。
だけど俺たちはそうじゃない。同じ部署の上司と部下。彼の言うことは絶対。そして俺はそれに従う犬でいい。それだけでいいんだ。
終わり
タイトル「風のない場所」
20220527・29
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